漢字とともに

浅井 孝郎*
昭和ひとけた世代の私は漢字大好き人間である。書取りの実力は、やや衰えて来たが、読みは未だ少しはと自惚れている。「漢検」で言えば二級から準一級ぐらいだろうか。
かっての満州国大連市で生まれ育った私は幸い幼少期の環境に恵まれていた。八歳と十歳年長の二人の兄の机に並んだ参考書に囲まれて遊ぶうちに子供心に代数、幾何をはじめ 物理、化学、地理、旺文社、蛍雪時代などの文字に自然と慣れ親しんでいった。
座敷の書棚には、世界文学全集と共に泉鏡花、佐々木邦、そして何故か、少年講談などの全集本が並んでいた。当時は布地の装丁本が多く、どの一冊を手にしてもずしりとした重みがあった様に記憶している。テレビやゲーム機のない当時の子供たちはごく自然に読書に親しめたようであった。
私自身も嵐が丘、椿姫、などを読んだ後はロマンの世界の主人公や時代背景に夢を馳せ、余韻に浸り、寝つかれない夜があった事を思い出す。我ながら随分とませた子供だったかなと今も苦笑している。
挿絵が少なかった頃の全集本では読者自らが夫々に美しい画像を描けた様に思う。
また私たちは、幼年倶楽部、少年倶楽部の月刊誌に胸を躍らせ、山中峯太郎、江戸川乱歩、佐藤紅緑、吉川英治など多くの作家と併せて田河水泡、島田啓三といった漫画家にも育てられた世代である。
「漢字」を辞書で引くと「漢民族の間で発生し発展した表意文字」とある。最近の中国では略字化が進んでいると聞くが日本ではそれ程の変化は見られていない。私は「漢字」と言う呼称を「国字」と置き変えても宜しいのではないかとすら思っている。
今の子供たちは学校と塾の狭間を行き交い読書どころではないであろう。それだけに世評を騒がせた漢字検定のお家騒動であったが何とかみんなが挑戦を続けて「国字」能力向上に励んで貰いたいと願っている。
私も高齢者と呼ばれるようになって久しいが、もうひと花をとの願望を夢見て、少々異性に惚れっぽくなって来ている。
たまたまある時、辞書を見て仰天した。『惚れる』(ホレる)と言う字は何んと『惚ける』(ボケる)と同じではないか。桑原桑原、いやはや本当に漢字は難しいが、しかし途方もなく面白い。        
 
 
 
 
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
 
 
 
 
 
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