もう一つのメダル

浅井 孝郎*
今回のロンドンオリンピックでは、各選手の見事な活躍によって、日本は過去最高三十八個のメダルを獲得する事ができた。特に個人部門での女子選手の善戦健闘と、男女ともどもに団体競技の上位入賞が強く印象づけられ、大きな喜びと感動を貰った。
競泳の男子400b・メドレーリレーでは、一位との差が僅かコンマ25秒差で銀メダル獲得を果たした日本チーム選手たちが
「北島康介選手を、手ぶらで帰す訳にはいかない」
と語る言葉に、熱い友情に結ばれたチームワークの素晴らしさを感じた。
メンバーの一人、松田丈志選手は私と同郷宮崎が生んだ世界的スイマーとなって名を馳せた。彼は四歳から水泳を始め、その頃から大変な負けず嫌いの性格で、頑張り屋の少年として成長したそうである。
この少年の才能を見い出し夢を託した久世由美子コーチが、二人三脚で世界大会から北京五輪へとサポートしていった、遂には彼の生活全般の指南役となり、寝起きを共にして、指導にあたったと聞いている。
当然ながら、久世コーチには家庭が有り、主婦と公務の狭間での葛藤は、如何ばかりであったかと想像される。この少年を世界の檜舞台に立たせようとする彼女に、全面的に理解協力されたご主人は、主夫としての裏方に廻るという、私たちには到底真似のできない苦労の日々であったろうと推察できる。そこには、きっと夫婦の深い愛情と強い信頼が有ればこそだと思っている。
オリンピック閉幕後の某日、宮崎日日新聞の記事として、松田選手は勿論、久世コーチにも特別功労賞が、地元延岡市から贈呈されたと掲載されていた。本当に喜ばしい表彰であった。
一方、妻であるコーチを二十数年の長きに亘って、陰で支えて来たご主人の計り知れない努力に対して、気持ちだけの「愛のゴールドメダル」を贈りたいなあと、田舎の飲み仲間と語り合った。その時、一人の男が笑いながら叫ぶように言った。
「きっと、女房と一緒に成し遂げたという達成感で、ご主人も同じように嬉しかったに違いないよ」
みんな有難う。
 
(二〇一二年十月)       '
テーマ 自由題         '
 
 
 
 
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
 
 
 
 
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