野次馬気分

浅井 孝郎*
板橋区は戸建て住宅数に較べてマンションとアパートの部屋数が圧倒的に多いらしい。 私も武蔵野の面影を残す高台にある緑化地区のマンションに移り住んで三十年が過ぎた。 子供たちは十数年前に独立して、今は夫婦二人の暮らしとなっている。
区内の友人も同様の住まいが多勢いて、それぞれに便利な日々を過ごしているようである。 ただ女性の立場からは交通、ショッピングなど日常生活の便に始まり、緑と空間など満足度の条件は多岐多様に亘って、 男性以上に評価基準が厳しいように思われる。
昨年末の衆議院選挙で板橋区選出のS氏はこの度の組閣で文部科学相に就任した。 板橋初の大臣となった同氏の住まいは、小宅から徒歩十分ほどに建つ三棟のマンション群の一室である。 偶然にも同じ棟に私が属している「男のおしゃれの会」の友人 H 氏、妻のゴルフサークルの仲間 I さん、 そして私の在職中の後輩女性 G さんの三方が入居している。
十一階建ての棟には七か所のエントランスが有り、それぞれにエレベーターが設置され、各フロアーの向き合う二軒で使用し、 計二十二世帯に一基の利用となっている。私などは下世話に管理費が高いのではと案じているが、ご当人たちは極めて満足の面持とお見受けしている。
年明け早々、敷地の正面玄関に警備官用のボックスが設置され二十四時間常駐となっていると聞いた。 同じエントランスのH氏は
「わが家も恩恵に預かっています」
と微笑んでいる。
一月上旬の好日、妻は初打ち会と称して声が掛かり、
「夕方四時までには帰ります」
と最高の笑顔を見せて、友人の車で最寄りのゴルフ場へ出かけて行った。
帰宅した妻はやや興奮気味に語り出した。
「I さんがどうしても見ていきなさいと言うから、何時もは裏口で降ろすんだけど、今日は正面ゲートから入って警備ボックスを見て来たわよ。 丁度、電話ボックス位の大きさの透明ガラス張りのようで、外に一人のお巡りさんが立っていたわ」
食事の準備前にひとしきり話が弾んだあとで妻が思いついたように言った。
「二十四時間体制との事だけどトイレはどうなっているのかなあ。大臣宅かしら」
「馬鹿だなあ。管理センターがあるじゃないか。それに交代制もあるだろうし」
「そうだわね。でも、あちらのマンションも株が上がったわネ」
実に他愛ない会話であるが初打ちの日に、初めて見た光景に、若干の対抗意識を抑えながら興味津々の笑顔であった。
 
平成二十五年一月        '
テーマ 自由題         '
 
 
 
 
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
 
 
 
 
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