臨場感はすばらしい

浅井 孝郎*
先日久し振りに観劇を楽しんだ。妻の発意で三年ぶりにサークル「都民劇場」に加入して、四月の日生劇場が皮切りとなった。半期5回の観劇が出来るシステムで、月ごとに各劇場の演目のパンフを参考にして電話で申し込むようになっている。ただ希望日時が叶わない場合もあるので、なるべく早めに決めて連絡する必要があるようだ。なお歌舞伎座の年内上演とクラシック音楽演奏会は、別建てコースとなっている。
数年前に、妻が落ち込んでいた友人を元気づけようと、二人でメンバーになって一緒に楽しもうとしていた経緯があった。二年ほど続いたが、残念ながら友人の体調の都合で退会していた。今回は私が腰痛のため、夫婦で出掛ける事が少なくなり、せめて足場の良い劇場ぐらいに行きたいものと思い立っての再加入である。歌舞伎座の華やかなこけら落としのニュースも、動きを駆り立てたのかも知れない。
四月の日生劇場は、池畑慎之介と水谷八重子の「越路吹雪トリビュート」と銘打ち、越路吹雪への慕情と思い出を語りながら、歌って聴かせる二時間半であった。通称ピーターの観客を沸かせる巧みな話芸、ダイナミックなダンスと声量豊かな歌唱力には、アンコールの拍手が鳴りやまず、三回のカーテンコールが繰り返されたほどであった。
舞台から語りかけた話では、彼ピーターは六十歳の還暦を迎えたとの事、激しい動きと迫力ある歌声には全く年齢を感じなかった。童謡「村の渡しの船頭さん」**の歌詞『ことし六十のお爺さん』は現代では想像もつかない物語となってしまったようである。因みに、この曲が出来たのは昭和十四年とか。水谷八重子はこの年生まれと聞いて、偶然とは言えプロ芸人の若さを改めて実感させられた。
私も初めて身近での二人の芸に、すっかり魅了されて拍手を送ったが、心地よい臨場感に酔いしれた時間であった。
正午の開演とあって、その前に観客の多くがロビーのテーブル、ソファーなどで弁当、サンドイッチ、コーヒーなどを楽しむ風景もみられた。演目、出演者の関係もあってか、比較的、中高年層が多いように思った。
次月以降の観劇は次のような予定でいる。
五月 明治座  「若手花形歌舞伎」
六月 三越劇場 「新釈・新派金色夜叉」
七月 帝国劇場 「ミュージカル二都物語」
九月 新橋演舞場「九月大歌舞伎」
齢幾つになっても思い立つと、心うきうきと弾んでくるから不思議である。
郷里宮崎の友人の一人がよく言う話に  「お前たちは好いなあ。いつでも音楽会や演劇に行けて。俺たちにとっては、航空運賃、ホテル代込みで高いものに付くんだぞ」と。      
確かに彼は上京する都度、観劇の他に百貨店廻りをする。男性ファッションの空気に触れるためもあろうが、実は各店の画廊で美術展、絵画展が開かれているためである。絵心のない私にとっては耳の痛い話である。
郷里宮崎ではそのような熱烈な芸術愛好家たちが一つになって県を動かし、毎年五月に一週間、「宮崎世界音楽祭」と銘打ち、世界各国から一流の音楽家を招いて演奏会が開催されるようになった。一九九六年の春以来、今や日本各地の音楽ファン数百名が集う年度行事となっている。これも発足当初、ニューヨークのカーネギーホール館長だった、巨匠アイザック・カーン氏に毎年来宮して頂いた事が、他県羨望のイベントとして現在も確固として続いている一因と聞いている。
私も在京の利を活かして、出来るだけ多くの文化、芸能、美術に直に触れる機会を持ちたいと思う。感動する心だけは、何時までも失わずにいたいものである。
一〇一三年四月
 
テーマ  自由題          '
 
 
 
 
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
** 童謡「村の渡しの船頭さん」はここをクリックしてください。 また、歌詞はここをクリックしてください。 メロディ、歌詞、とも素晴らしい。(HP管理者)
 
 
 
 
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