ダービー雑感・縁は異なもの

浅井 孝郎*
快晴の6月1日、第八十一回日本ダービーが、東京都府中市の東京競馬場で、華やかさと熱気のなかの開催となった。
七年ぶり二度目の観戦に来場された皇太子は、貴賓室のベランダに立たれて、十四万人を超える大観衆と一緒に、ファンファーレの手拍子をされた。
五十年以上の競馬フアンを自負する私も、ダービーでは多くの感動と興奮の場面に出会ったが、馬券的中して大きなプラスの喜びはたった一度しか味わっていない。
参加することに意義があると、負け惜しみの敗者の弁であるが、唯一の美酒は、その昔京都勤務時代、店のスローガン「GO・GO京都」をもじって、当時の6枠制の連勝単式5=5を購入した際に、高配当を得た記憶が残っているだけだ。
年に一度のお祭りならば、評論家の推論、予想を参考にするよりも、勝手な語呂合わせや、身近な思い入れの数字で、楽しむのも一興かと考えている。
昔の6枠制連勝単式の組合せは最大36通りだった。現在の馬番連勝単式では、18頭出走の場合、18×17=306通りとなり的中させるのも至難の業に思える。
今回のダービーでは、私は蛯名正義騎手に声援を送った。玄人受けする44歳。今年一月に2200勝を達成。史上四人、現役三人目の快挙を成した。多くの重賞レースを勝ちながら、ダービーでは過去22回の挑戦で、いずれも惜敗を重ねている。
1番人気のイスラポニータ号で臨んだ今年だったが、3番人気の横山典弘騎乗のワンアンドオンリー号に、最後の直線で競り負けて2着となり又も無念の涙を呑んだ。その優勝馬は7000頭を超える三歳馬の、文字通り頂点に立ったのである。
横山典弘騎手は二度目の栄冠。橋口弘次郎調教師は厩舎開業33年目。ダービー挑戦に送り出した20頭目で、初の悲願を果たすことが出来た。六十八歳の同師は定年も近く、今回ラストチャンスのつもりで臨んでの栄光に、涙の止まらない喜びだったようだ。
横山騎手がスタンド前の馬上でヘルメットを脱いで一礼すると、双眼鏡で見つめておられた皇太子は笑顔で拍手を送られた。
今年のダービーの全く偶然で面白い事は『優勝馬のワンアンドオンリー号、横山騎手そして馬主の前田幸治氏は、いずれも皇太子と同じ2月23日生れ』なのである。
この事を聞かされた皇太子は横山騎手に、侍従を通じて
「優勝おめでとうございます。私と誕生日が同じですね」
とメッセージを送られたという。    
横山騎手は記者会見で
「誕生日が四つ重なったから勝てたのでしょう。皇太子さまが来られると聞いて、これはもしかして、と思っていました」
と嬉しそうな笑顔の談話だった。
「人生いろいろ」と言うが、本当に理屈で割り切れない、不思議な出来事や出会いを見たり聞いたりするたびに驚いている。
数多い人の中から、何で同じ時間に、同じ場所でのふれあいが生まれたのか。なぜ一緒の仲間になれたのかと考える時、お互い出会いの大切さを、もっと自覚しないといけないだろう。
楽しかったダービーを観戦した後で、数字と出会いについて、ある神秘性に触れた単純な私である。毎日が日曜日、もう暫く偶然の喜びを求めてみようと思う。
 
平成26年6月        '
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
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