生きがいを求めて

浅井 孝郎*
最近、第二の人生という言葉を耳にすることが多い。ふと思いついて妻に尋ねてみた。
「どういう意味だろうね」
「長年の勤務を終えた後の、余生でしょう」
「なるほど。それじゃあ殆ど男性の事かな」
このように結論づけてよいか分からないが、まんざら間違いでもなさそうだ。
社会全般を見ると、平均寿命が延びた割には、定年延長の規定は余り変らず、退職後の生活は結構長期になっているようである。
私も今から二十年前に、四十年間の勤務を終えた。地域社会には容易に溶け込めなかったが、一年ほどして、居住区板橋の広報紙で「中高年男性おしゃれ講座」に四十名の募集が有り、それに参加して得た交友のお蔭で、現在も何とか根を下ろしている。
幸い在職時のスタッフ仲間に恵まれ、うち八名の諸兄と毎月第二土曜に昼食会を持っている。早や二百回を超えるが、いずれも個性豊かな楽しいメンバーで、私は大変な勉強をさせて貰っている。
その一人に、歩く事に生き甲斐を感じ実行している好漢がいる。その動きたるや並ではない。退職後の余暇の活用のために、自ら企画して行動し、健康に役立ち、見聞を広め、耐える精神力を養うために、文字通り選んだ道だと言う。
彼は、最初の挑戦目標を五街道に置いた。踏破順に並べると、次の通りで、何れも東京日本橋が出発地である。
  1. 旧東海道  512`(64歳の時)
    平成十五年九月七日 出発
    実質二十日 京都・三条大橋着
  2. 旧日光街道 147`(65歳)
    平成十六年八月十八日 出発
    実質六日  東照宮着
  3. 旧中山道  537`(66歳)
    平成十七年七月二十一日 出発
    実質二十三日 京都・三条大橋着
  4. 旧甲州街道  209`(67歳)
    平成十八年八月二十九日 出発
    実質八日 諏訪湖畔の中山道交叉着
  5. 旧奥州街道  366`(68歳)
    平成十九年七月一日 出発
    実質十四日 仙台藩士戌辰戦没碑着
つづいて彼は次の企画を巡らせ実行した。
イ  琵琶湖一周
平成二十二年十一月二十一日から六日
ロ  富士山一周
平成二十四年四月二十五日から六日間
ハ  富士五湖一周
平成二十四年五月二十六日から七日間
二  伊豆半島一周
平成二十四年八月十六日から六日間
ホ  忍野八海めぐり
平成二十四年十二月三十一日〜翌一日
最近では、平成二十五年一月十七日から始めた東京メトロ九線すべての「歩いて各駅めぐり」であった。
これらの記録は、それぞれ地図と写真を満載した紀行文として、素晴らしいアルバムとなって編集され、彼の親友T君と私の二人に、毎回贈られてくる。
秘めたエピソードとして、コースの最終日には、東京から馳せ参じた奥さんと一緒に、ゴールインしたそうである。話を聞いたり、アルバムの写真を見せて貰うと、こちらまで嬉しくなってしまう愛妻物語である。
居住地の杉並区のボランティア活動に励みながらの実績だけに、彼のこのような奇抜な退職後の生き方を面白く学んでいる。
私自身、この二十年間に色々とチャレンジしてみた。男の料理教室(池袋)に二年。書道(板橋)、囲碁教室(高田馬場)に各十年ほど。大東文化大講座に八年、区の老人大学に四年など。頂いた証書、段位は結構な枚数となっている。どれ一つとして物になってはいないが、その間は結構楽しく、日々張り合いが有ったと思う。
今はエッセイ一筋。悪戦苦闘しながらも、楽しくパソコンに向かっている。最近では宮崎、福岡、大阪在住の中学時代の同類項三名と、作品の交換をしながら遊んでいる。
老いてなお、好きな事に熱中できるのは、誠に幸せである。
二〇一五年三月
平成27年葉月
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