孫の誕生日

浅井 孝郎*
私たち夫婦には三人の孫がいる。長女宅に大学四年の女子と、高校三年の男子の二人。長男宅に高校三年の女子一人である。
長女は私どもと同じ緑地の高層マンションの十六階に親子三人で住んでいる。十年ほど前に新潟で歯科開業医の夫を置いて、教育上という大義名分を掲げて、子供たちと一緒に東京に舞い戻ってきた。婿殿は気の毒にも、月二回、逆単身として上京帰宅している。
北国の雪に閉ざされる長い冬と、戸外で遊べない環境に影響されて、内向的だった男子の孫も、広々とした緑と、凌ぎやすい気候に活力を蘇らせた。子どもらしい反応は早くも小学高学年になった折に、陸上競技に興味を抱き始めた。
運動会などのリレー出場には殊のほか意欲を燃やし、競い合う闘争心も表に見せて、その応援に私たちもすっかり「バカ爺婆ぶり」を発揮してしまった。
その後、中高一貫の私立校での五年余を、陸上部一筋で頑張って、五月いっぱいまでの残る一か月の在籍となったようである。去る四月十六日夕刻、本人の誕生日の祝いに用意してあった熨斗袋を受け取りに立ち寄った。短い時間だったが、すっかり背が伸びて格好良くなった孫の姿に、心から嬉しそうに見つめる婆様の顔が幸せそうだった。
「進学が来春になったけど、志望校は決めたのかね?」
「うん、T工大と私立はW大に希望して、どちらも工学部の建築科を考えている」
「身内に建築関係に進んだ者はいないから、面白いんじゃないのかな」と、相槌を打って、
「ところで幾歳になったのかな」と尋ねた。
「今日で十八歳になったよ。僕にも選挙権が有るんだ。今度の参院選は清き一票だ!」
弾んだ声が返ってきた。
「えっつ!本当かい?早いもんだなあ。しっかり見る目を養っときなさいよ」
とは言ったものの、成長の喜びと同時に、決して甘く見るつもりはないが、少し複雑な気持ちが湧いてきたのも事実だった。
時の政権の考え方、世の中の趨勢などもあろうが、老いた私には、孫たちの世代の年齢経験から考えて、心底からの賛成はしかねる課題である。一方、心の片隅では自分の考えが古いのではないかと自問している。
最近体調の所為もあって外出が減り、他人様との対話や意見交換などの機会が少なくなっていることも影響しているのだろう。特に若い諸君との積極的な交歓の場を、持ちたいものである。
すっかり逞しさを見せて来た孫の顔に魅せられて、舞い上がってしまった爺の、お節介な独り言である。
テーマ 自由題
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
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