老春を妻と生きる

浅井 孝郎*
私は八十五歳。杖を頼りのよちよち歩きに較べて、妻はプール、美容体操、ゴルフなどを楽しみ、すこぶる元気である。
結婚したのは昭和三十六年四月、私が福岡支店勤務の時で、妻は同じ会社の佐賀支店に勤めていた。お世話になった社内医師の紹介による見合いから十か月後の挙式であった。当時、それぞれの年齢は三十歳と二十二歳、早いもので金婚式もとうに終えて、五十五年が過ぎた。
その間、在勤中は、東京福岡の間を七回の転勤と、大阪八年の単身赴任があった。漸く私が五十三歳の春、子会社に出向して、一か所に落ち着くまで、妻には引っ越し、家事、育児などに加えて、各地での対人関係など、かなりの負担を掛けたと感謝している。
結婚当初は、給与が低く、毎月のやりくりが大変で、初めて千円の貯金が出来たのは、四年目の岡山支店勤務の時だった。その時の妻の嬉しそうな表情は、今も瞼に焼き付いている。
もう一つ記憶に残っているのは、結婚十年を過ぎた京都支店勤務の折、初めて先斗町の焼肉屋に行った事があった。当時八歳と四歳だった子供たちの言葉である。
「お肉って、こんなに軟らかくて美味しいんだね。だって、うちのお肉はチュウインガムみたいなんだもん」
『若い時の苦労は買ってでもしろ』
と言われるが、この歳になってみると、将に至言だと感じる。
本当にいろいろな時を経て、現在が有る。振り返ると、全ての人に、そしてあらゆる事に『感謝』としか言いようがない。
私は昨年の六月から、脊椎と腰椎の手術の後遺症で、歩行に不便を感じており、妻に老いてまで面倒を掛けてはと、奮闘努力中だが改善には未だ時間を要している。
しかし、もう少し頑張らなければと、心に鞭打って、日々前向きに、明るく生きて行くつもりだ。
お蔭様で、多くの学友と社友、区内の友に恵まれ、皆さんの励ましが生きるエネルギーとなっている。
昨年の暮れから、週二回のデーサービスに通い、新たな知友も増えている。特に趣味の時間では、カラオケと漢字書き取りの二つのコースを楽しんでいる。
ふと、物の本で読んだメモを取り出した。
「楽しく、かっこ良く老いるための六ヶ条」と言う。
  1. 老いるマネーを蓄えるべし。
  2. 健康であるべし。
  3. 老勉すべし。
  4. 老働すべし。
  5. 若い異性の友を持つべし。
  6. おしゃれをすべし。(おしゃれを忘れた時にボケが始まる)
しかし、この六ヶ条を充たすには、出来れば自分の伴侶が先ず健康であってほしいものである。
この歳になると、二人揃ったカップルは、幾分少なくなっている。そして、健在な夫婦は二人きりの生活に戻っている。我を張ったケンカも程々にして、お互い助け合っていかなければと、誰しも思っているだろう。
ある先輩から教えられた言葉を思い出した。
「歳をとったら女房の悪口を言ってはいけないよ。ひたすら感謝しなさい。これは愛情と言うより、男の生きる知恵なのだよ」
なかなか味があるなぁと独り合点している。
兎にも角にも、ここまで来たら、もう暫く老妻のご厄介になりながら、仲良く生きたいと願ってる。
テーマ 自由題
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
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