自然の中に生きる

浅井 孝郎*
現在の住居に住んで、四十年ほどになる。飽きるどころか、だんだん好きになる日々が嬉しい。
二十三区の片隅ながら、地下鉄とバスの便が良く、広い空と緑に恵まれ、自然の香りに充ちた生活に感謝している。
二万坪ほどの緑地を十棟のマンションが囲み、中を流れるせせらぎに沿った歩道を、楽しそうに走る子供たちの笑顔が微笑ましい。
春ともなれば、雀たちの可憐なさえずりのなかに、時として目白、運が良ければ鶯の唄を耳にすることもある。樹々草花の鮮やかな色に目を見張り、そのやさしい香りを、肌で感じる素晴らしい日々となる。
初夏を迎えると、緑は一段と繁り、四階の自宅から向こうの住まいは、高層階のテラスしか見えない。そして、夕方になると何処の池で生まれたのか、蛙の大合唱が始まる。
盛夏の季節には、今度は、地下から顔を出した蝉の大群の大合唱の連日となる。毎年のことながら、計り知れない自然界の大きさと不思議さを、目の当たりに驚いている。
やがて、声の主はつくつく法師とひぐらしへ移っていく。暗くなると松虫、鈴虫の声となり、いつしか秋の訪れを知る。更に冬が近まるにつれて、樹々の緑も、黄色から茶色に変わり、枝の間も透けてくる。
冬は落ち葉の季節でもある。広い敷地内と周辺の歩道を、晴れた午前中に、十名ほどの担当者が清掃に励んでいる。黄ばんだ落ち葉に物のあわれと、季節の香りを感じるのは、私だけではあるまい。
この四十年の間、自主的に緑化運動に励む三十名ほどのグリーンボランティア諸氏の尽力が続く。国土交通省の表彰を何度か受けたこの努力があって、私たちも緑と共に住んでいる。みんな有難う。
テーマ 「香り」 (八百字まで)
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
コメントはこちらへメールして下さい。その際、文中冒頭に「HPコメント」と記して下さい。 メールはHP管理者へメールしてください。
 

<コメント欄>   当欄は上記のメールをコメントとして掲示するものです。
 

アクセスカウンター