言葉遣いについて

浅井 孝郎*
自分の意思を言葉で表現することが、意外に難しいなと感じるこの頃である。
少しばかり蟲の居所が悪いと、妻にも感情的な言葉を吐いてしまう時がある。加齢性の癇癪だと笑われて赤面する事も再三で、我ながら恥ずかしい限りである。
テレビ番組の国会中継では、よくもあれだけ反論してケチをつけたり、言葉尻を捉えるものだと感心している。対する答弁もまた、無愛想で木で鼻をくくるような応接に驚いてしまう。画面を見ながら自分たちの世界では、あのような言葉のやり取りは決してしたくないと願っている。
最近、おバカさんを名乗り、それを売りにするタレントが登場のお笑い番組が多くなった。視聴者サイドとしては、失礼ながらある種の優越感を持って笑いながら見ているが、わが子や孫たちには、あのようになって欲しくないと願うのは勝手なエゴなのだろうか。
ニュース、教養番組は、正直あまり面白くないかも知れないが、情報と知識収集とともに、正しい言葉遣いを耳にする事も必要かと思いチャンネルを合わせている。
年齢とともに、昔の事を良く思い出すようになってきた。私が小学生の頃、旧制高校在学の兄たちの会話が耳に残っている。
岩波文庫の小説の登場人物たち。そして、フランス映画の主人公と脇役たち。これらの人が交す会話の表現が、実に素晴らしいと熱っぽく語りあっていた。
単純な私は大学に進むと読書はさておいて、フランス映画の名場面に、どれだけ熱中したことか、多感な青春の日々であった。
望郷・外人部隊・舞踏会の手帖・巴里祭・北ホテル・などなど上映館を訪ね歩いた回数は何れの作品も五指を数える。
主人公たちのドラマチックな出会いと恋・そして悲しい別離のシーンの会話に魅了され、酔いしれて、寝付かれないほどであった。物質的には充たされなくても、若い心に夢とロマンの灯りを点してくれた名作に出会えた良き時代であった。
先日あるコラム欄で面白い文章を読んだ。劇団四季の浅利慶太さんが、ドイツのソプラノ歌手エリカ・ケートさんとの対談で、彼女が持つ独特の感性での各国の言語の響きと匂いについて尋ねたところ
◎イタリア語は歌に向く言葉
◎フランス語は愛を語る言葉
◎ドイツ語は詩を作る言葉
と評した。そこで、日本語はとの問いに対して彼女は
◎日本語は人を敬う言葉
と答えたそうである。
この文章を読んで私も改めて日本語の素晴らしさに感動し本当に嬉しく思った。丁寧な言葉の大切さを一段と感じたこの頃である。
 
 
 
* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
 
 
 
 
 
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エリカ・ケートさんの歌声
石井俊雄
ドイツのソプラノ歌手エリカ・ケートさんについて調べてみました。
その結果は彼女の歌を聴くのが一番。素敵なソプラノです。
ここをクリックすると聴きなれた曲が流れます。モーツアルトの「春への憧れ」です。
もう春ですが、この曲を聴くと春への憧れが蘇るよう。結婚で言えば、新婚当初の思い出ということでしょうか。
この画面の中ほどに「もっと見る」というタグがありますが、そこをクリックするとこの歌の歌詞が出ます。
ドイツ語なので全然解りません。ここは桑原君が見てくれることを期待するだけです。

話ちがうけど、この曲、小学唱歌「早春賦」に似ていますね。出だしもそうだし歌の狙いもそう。
だが、曲は一度憶えたらそのメロディから離れることは中々できないのではないのかな?
ただ、コードシーケンスを真似ることは可能なはず。
そうしたら、結果として同じような曲が出来る可能性が大でしょう。 まして況や、歌の狙いが同じだとしたら、なお一層かも知れません。
だけど、そんなこととは関係なく「早春賦」は素晴しい曲としていいのではないでしょうか。
(2012/5/8 11:00)
本題の言葉遣いについては小生も気がかりなところがあります。
間違った使われ方の実例を1つだけ挙げましょう。それはは吉祥寺辺りで営業する関東バスの車中での話。
バスに乗ると女性の声でアナウンスが流れます。
「お子様をベビーカーに乗せたままご乗車する際は、ベビーカーを固定して動かないようにご注意下さい。」
「ご乗車する」とは云わないですよね、普通は。「乗車する」とは云いますが。
だって、「ご乗車」は敬語、「する」は普通語。敬語+普通語の方程式の右辺は敬語ではなく普通語だから、 お客様に普通語で接するということになるからおかしいと思うのです。
なのに、もう1年近くなるのに、関東バスの中ではこの用語を繰り返し吹き込まれます。 小生の頭の中はそれを聴く度パニック状態。今のところ何とか踏みとどまっていますが、その内、ご乗車するという敬語とも普通語ともつかない変な言葉に慣らされるかも知れません。
しかし、心配なのは若い人への影響。通り道には成蹊大学とかもあるし。
日本語は、名詞に「する」をつけて動詞にする用法があります。多分、漢字導入時、やむなく取り入れた用法だと思うのですが。
便利な用法ですが、名詞の部分に敬語というか丁寧語を許すと変になります。 例えば、「ご尊敬する」なんてね。・・・乱れそめにしわれならなくにですね。
エリカ・ケートさんは、「日本語は人を敬う言葉」と云われたそうだけど、ご返上する?
(2012/5/8 22:15)