夏の思い出ふたつ

浅井 孝郎*
今年は本当に暑さ厳しい夏だったと思う。気温にプラスして、所によっては、雨と風の日も異常に多かった。
嬉しい夏の高校野球も一〇〇回大会を記念して盛大に開催された。なかでも笑顔と大声で、体をのけぞらせながら校歌を歌う、金足農業高校(秋田)の選手たちの姿には、全国の多くの観衆が心を奪われた。
晴れの舞台にコマを進めた逆転劇の、はらはらドキドキの勝ちぶりに合わせて、大観衆までもが、なじみになった大応援団の元気なダンスといい、私たちも、すっかりフアンになってしまった。
そして野球部が甲子園を沸かせているさなか、九匹の子豚が生まれたと聞いた。これも準優勝した金足農業高校である。畜産を学ぶ選手は「学校に戻ったら、それぞれに部員の名前を付けたい」と語った。文字通り豚児として、自慢の子豚になるだろう。
惜しくも全国制覇は逃したけれど、公立の農業高校の活躍は、大会に花を添え、見事な準優勝だったと思う。雪国という厳しい環境に耐えて練習に励んだ姿に、高校野球の神髄を見た。
私たちにとって、判官びいきは決勝進出に上り詰めたチームにとって、ふさわしくないかもしれない。しかし、雪国の学校で、公立で、選手全員が地元出身とくれば、ついつい肩入れしたくなるのも無理はないだろう。
その一方で、秋田の金足農高に打ち勝った大阪桐蔭高校を称えることも必要であろう。敵役と目されて、プレッシャーをはねのけた選手たちの精神力は、本当に素晴らしいものがあると思う。二度目の春夏連覇の金字塔を高校野球の歴史に打ち立てたのである。
この快挙は高校野球の歴史に末永く刻まれることであろう。同じく秋田県勢の一〇三年ぶりの決勝進出も球史に残る事だろう。最後に散ったが、私たちの心に刻まれたのは、悲劇ではなく、笑顔だったと思う。
この夏にもう一つ、私たちが心を動かされた出来事があった。それは山口県周防大島町で8月12日に行方不明となり、3日後に無事保護された藤本理稀ちゃん(2)が、 20日に入院先から無事に退院した事だった。入院後に発熱など徐々に回復して、元気に歩き回れるようになったという。
この山林に迷い込んだ幼児を助けたのは、大分から馳せ参じたボランテイアの、尾畠春夫さん(72)だった。三日三晩が過ぎて、家族でさえ諦めかけていたとき、尾畠さんがあらわれ「よしくん、よしくん」と呼びながら山を登ったそうである。
生きていると信じていたからこそ、出来た行動だったのだろう。映像で見る理稀ちゃんは、母親の胸に抱かれて、いともあどけない顔を見せていた。尾畠さんは「災害ボランティア」として一躍有名おじさんになった。
ねじり鉢巻き姿の尾畠さんは、今も全国を飛び回って活躍に奔走しているとのこと。世の中には素晴らしい御仁がいるものと嬉しくなってくる。そして日本は良い人が多いなあと思う。
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* 八期生浅井伸子さんのご主人です。(HP管理者)
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