「人口の配当」

2050年の世界 英『エコノミスト誌は予測する』より

 
石井俊雄
一冊の本がある。
「2050年の世界 英『エコノミスト誌は予測する』」という本だ。 第一刷は2012年8月5日、著者は「英『エコノミスト』編集部」とある。
内容は、「人間とその相互関係」、「環境、宗教、政府」、「経済とビジネス」、「知識と科学」の4部門から、 テーマごとに2050年を予測した20編の論文(章)から成っている。夫々1論文ごと記者1人が担当・分筆した論文集となっている。
英『エコノミスト』誌(The Economist)は、1843年に英国で創刊された週刊誌。 ニュースをただ報道するだけではなく、その背後の意味、将来に与える影響を解説し、大きなトレンドを深い洞察をもって伝える特集スタイルの記事を得意とする。 インターネット全盛の時代に、没落する他の紙媒体を尻目に、2000年には100万部だった部数を2012年には160万部まで増やしている。 予測物は伝統的に得意とし、1962年には特集「Consider Japan」で、日本が米国と並ぶ経済大国になることを予測、敗戦国だった日本のイメージを一新させた。
そのように、1962年に日本の経済大国化を予測し、見事に的中させたグローバルエリート誌が、今後40年間を大胆に予測したのだ。
小生は、その中から幾つかの論文を拾い読みしたので、面白いと思った部分を抜粋することで紹介することにする。 抜粋だから、小生の私見は書かない。だが私見を書くときはその旨を表示しよう。 そしたら、「英『エコノミスト』編集部」の予測なのか、小生の私見に無駄な時間を費やさないために読み飛ばす可き箇所なのか、鮮明に分かるだろう。
 
第1章「人口の配当を収穫する」から抜粋
  1. 出生率(1)は世界的に低下し、2050年には2.1になると予測される。その結果、世界の人口増のスピードは減速し、やがて人口増加はとまる。
  2. 出生率の低下は、ある世代のみが突出して多いという現象を生み出し、その世代が年齢層のどこにいるかで、その国の経済が変わってくる。 この出っ張りの世代(2)が労働年齢に達したとき、その国は急成長する。これを「人口の配当」という。 さらに、その世代がリタイヤし、被扶養世代になると、その配当は負に変わる。
  3. これから人口の配当を受ける地域は、インドとアフリカと中東(3)である。しかし、若年層の膨らみは政治的な不安定要因ともなる。
  4. これから人口の負の配当を受けるのは、日本と欧州、そして中国である。ほかとは比較にならないほど人口動態の負の配当を受けるのは中国だ。 安い労働力による世界の製造工場の役割を中国は終える。日本は史上未踏の高齢社会(4)になる。
(註)
  1. 「出生率」は、一人の女性が出産可能期間に生むと予測される子供の数。
  2. ”出っ張り”世代が成長して労働人口の仲間入りをすると、国家はおよそ40年の間”人口の配当”から利益を受ける。 この時期は、比較的子供の数が少なく(出産率が低下するため)、比較的老人の数が少なく(死亡率が高いため)、経済的に活発な大人の数が多い。 家族の構成人員は減り、所得は増え、大きな中産階級が形成され、平均寿命が急上昇し、社会に大きな変化が訪れる。
    しかし、かっての黄金世代が銀髪になって引退を迎えると、配当は負債に変わる。不均衡なまでに大きな老人層が、比較的小さな後続世代に支援を求めるからだ。
    人口の配当が自動的に経済成長を創りだすわけではない。事の成否は、増大する労働力を国家が生産的に活用できるかどうかにかかっている。
  3. 中東は、巨額の石油収入があるにもかかわらず、大量の雇用を創り出せた国はほとんどない。しかし、中東諸国は高い教育水準という利点を持っている。 中産階級が育つ条件は既に整っており、男女の間の教育格差も小さい。中東のイスラム諸国で姿を現し始めた人口の配当は、 2050年までの40年間に景気を沸騰させる可能性を切り開いてくれている。
  4. 日本の高齢者比率は長いあいだ世界最高を維持しており、今なお比率は高まっている。 2010〜2050年期に、日本の被扶養者率は40ポイント上昇し、2050年までには、被扶養者数と労働年齢の成人数が肩を並べるだろう。 過去を振り返っても、このような状況に直面した社会は存在しない。人口の半分が52歳以上となった日本は、世界史上もっとも高齢化の進んだ社会となるはずだ。
私見
  1. 我々は、戦後日本が世界第2の経済大国になったのは、我々の努力もさることながら、その大きな部分を国民性に因っていたと思っている。 国民性とは、勤勉とか終身雇用制とかだが、忘れてならないのは、精神のどこかで日本人の民族としての優位性を信じていたのではなかろうか。 真正面から、「人種差別をどう思うか?」と訊かれれば、それは良くないことと答えるだろう。 しかし、それは観念上の答えであって、実際の精神の奥深いところでは、戦時中(我々が小さい頃)受けた教育の欠片としての神国日本の残滓が蠢いているはず。 だから、経済大国になったのも、精神の奥底では「人口の配当」の所為という考えはなく、自分たちの優秀さこそがもたらしたものだと仄かに信じている。 だけど、このエコノミストの2050年予測では、民族的優位性は認めず、経済成長は単に「人口の配当」に起因するとしている。 ・・・となると、我々は特別ってことはないのであるからして、当然のこととして、このままの経済大国の地位も怪しいものとなるのである。 だから、その内なんとかなるだろうではなく、対策をうたなくてはならない。 政治家は、相変わらず政争に明け暮れている。そんな暇があったら、エコノミストの予測でも読んで、 どうしたら人口の負の配当を軽減する方策があるか考えてもらいたい。
  2. この論文を読んだ収穫は、「人口の配当」という概念を理解したことだ。 民族の優秀さは、仮令それがあったとしても経済的成功には関係ない。そんなものは無いだろうけど。
  3. 我々が学ぶべきは、イギリス人の思考法だろう。 イギリスは今ではブリテン島の周辺に逼塞したかの感なきにしもあらずだが、ここ数百年の歴史を見れば、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど広大な地域に、 植民を配し今にいたっている。 同じ意味ではスペイン・ポルトガルは南米に、ロシアはアジア東方の広大な地域に植民し今に至っている。
    この数百年レベルの継続的成功の基となった思考法、・・・これを学ばねばならない。 そう言う意味からいえば、我々東亜人種の思考法はスパンが短い。いや、中国人は激するように見えてちゃんとバランスをとっているように見える。 激して奮闘努力するが、思考停止状態で一朝にして元の木阿弥を決め込むのは我々の最も得意とするところだ。
    かかる餓鬼っぽさを脱するためにも、イギリス人の思考法に学ぶべきだと思う。
    即ち、我々は、願望ではなく深い洞察によって未来を予測し対処していかなければならないのだ。
    ・・・それ、出来るだろうか?
  4. この答えは、感情(願望など含む)抜きで事物を評価する能力にかかっている。
    この件に関しては、第16章「次なる科学」の節中に面白い記述があるので稿を改めることにする。
 
 
 
 
 
コメントはこちらへメールして下さい。その際、文中冒頭に「HPコメント」と記して下さい。 Email
 

<コメント欄>   当欄は上記のメールをコメントとして掲示するものです。
「人口の配当」に対するコメント
徳永 博
英国誌「エコノミスト」の「日本は史上未踏の高齢社会になる。」と言う指摘は、その通りだと思います。しかし問題は、2050年に日本社会がどのようになっているか、学力も生産能力も落ち込み、「認知症」社会になってしまっているか。そうでないか、それが問題です。
現在のように、政府が少子高齢化社会の到来を前提に、やれ介護保険だとか、福祉予算のために消費税率引上げ、などと言っているようでは、前途有為な若者達まで介護福祉の仕事に就かせて、社会全体が老化するばかりです。私は百年前のクラーク博士にならって、「老人達よ、大志を抱け」と言いたい。
英国を例に取ると、第二次大戦以後、「英国病」と言われて凋落の一途を辿ってきた英国が、最近のロンドン・オリンピックに見られるような活力を取り戻し、欧州連合のリーダー的存在となっています。その開会式では、今や老人の域にあるビートルズのメンバーの1人、ポールマッカートニーや即位50年にもなる婆さんエリザベスU世が一生懸命頑張っている姿を、全世界の 人たちが見て、俺たちも頑張らなきゃ、と思ったことでした。高齢化社会とは、介護を必要とする老人が増える反面、知識も経験も豊富な人材が豊富な社会だということです。それをそのままにしておけば、元気な老人たちは自分勝手に山歩きやゲートボールに興じて、若者たちと別の世界を作ってしまい、社会に対する貢献を忘れ、せっかくの知識経験が発散するだけですから、これを社会の秩序維持亢進、活性化につなげるために、社会基盤を変革する必要があります。これには、国や公共団体の定年制の延長、企業の高齢者雇用促進、そのため年功序列制度の撤廃等、従来の労働環境を根本的に見直す必要がありますが、その前に、我々老人の意識改革が必要です。
また現在でも老人の多くが振込み詐欺にあって数十億円の金が消える、というのはもともと老人がそのような多額の金を、自己保身のために密かに貯金していたということですから、そのような金をもっと社会の活性化、教育の充実、産業の活性化のために使えるようにする、そのためには老後の不安をなくすように政治や行政が知恵を出して、平和で豊かな国造りに励む必要があります。今のように国政や地方行政に携わる者が政局に右顧左眄しているようでは、何時まで経っても活力ある高齢化社会は望めません。
(2012/9/1 23:49)