ごみ屋敷理論

石井俊雄
最近、朝日新聞の「Be」なる土曜日版が面白くない。 ページ数は結構あるが、内容はイマイチだ。 一番面白いのは、「サザエさん」の4コマ漫画の復刻版くらいだな。
それで、予てから不満を持っていたが、今日、朝日新聞の朝刊に付いてきた「Globe」というタブロイド型日曜版に目を通してみた。 何しろ、外は雨がそぼ降ってるし、する事もないからだ。 そしたら、面白い記事が目に入ったので、お節介ながら紹介してみる。
この「Globe」というタブロイド版は、グローバルな事象やニュースやトピックをピックアップしてレポートしている週間新聞(第一・第三日曜日)のようだ。 その中から、目についたのは、「散らかった机のアナタに朗報?」との記事。出処は、「ニューヨークタイムズ・マガジン」とある。 英語版のタイトルは、"What a Messy Desk Says About You"とある。
以下、その記事からの抜粋だ。
人間の性格は、その人の健康とか、健康にかかわる人生の決断にどのような影響をあたえるのだろうか。 結構ながいこと、心理学者たちが興味を持ち続けてきた問題だ。 これには、あまり驚きがない答えが出ている。内なる良心にじっくり耳を傾けるタイプの人ほど、自分をきっちり律することができるから、食生活も健康的。 だらしがない性格の人よりも長生きする。そしてきちんとした性格の人は、職場では整理整頓を旨として働く傾向がある、というのが通説だった。
ただ、逆に、整理整頓が行き届いた環境に置かれれば、だらしがない人の品行が改まるのか、という問題については長く結論が出ていなかった。 これに取り組んだのがミネソタ大学の研究者たちだ。 実験結果は最近、「サイコロジカル・サイエンス」電子版に発表された。
次の実験では、足の踏み場がないような場所で働くこともいくばくかの利点があることも明らかになった。 綺麗な部屋と汚い部屋に学生を分けて入れ、「ピンポン球の新しい利用方法を考えよ」という課題を与えた。 そして中立的な第三者が、その回答の独創性について審査した。
すると、書類がきちんと整頓された机でまじめに課題に取り組んだ学生よりも、乱雑極まりない部屋にいれられた学生の方が、 明らかに独創性あふれるピンポン球の使い方を編み出したという。
「この結果には驚いた」。行動科学の専門家で、研究チームを率いたミネソタ大のカスリン・ボースはそう話す。 これまで、しっちゃかめっちゃかな状態にも結構いい面がある、などと指摘した研究はほとんどなかった。 何十年か前には「割れ窓理論」が提唱された。 この理論によると、建物の窓ガラスが割れている、といったちょっとした無秩序状態でさえ、放置しておくと大変なことになってしまう。 管理が行き届いていないことを誰もが当たり前のように思うようになり、人々の規律は緩み、ニヒリズムが蔓延していく。
だがボースの研究結果によれば、散らかり放題の職場は、独創性を育み、何か新しいことを見つけようという探究心に火をつける、ということになる。
ボースや共同研究者らは「ごちゃごちゃした環境の方が、人々に伝統の殻を打ち破る力を与えるようだ」と結論づけている。 「その力が、これまでになかったような洞察のみなもとになる」という。
この研究成果は、実践的な教訓も含んでいるようだ。ボースは、仕事に取り組む上で、型にはまった思考法から抜け出さなければいけないような時は、 周りをごみだらけにしてしまうのも悪くない、と勧める。それによって、人間の想像力が解放されるのだ、と。
以上だが、面白いよね。 非常識の面白さというか、既成の概念を超えてるところに面白さがある。
この分では、近所の「ごみ屋敷」も、言い分ができてくる。独創性の揺籃というわけだ。その前を通るとき眉をひそめるべきではない。 また、我が身を振り返っても、散らかった机のいいわけができたというもの。 だから、朗報だ。
この他、いくつかの記事が載ってるが、その中で、「したたかに生き延びるEU」などEUを紹介した文章が面白い。 何も朝日新聞のPRする気はないが、EUを紹介した文章としてはよく書けていると思う。 その所感は、やはり西洋人は「契約の徒」だということ。 嘗て、国民を対象に社会契約論を展開したホッブスの後継者たちは、いまや国を対象にした国際契約に身を委ねているようだ。
紙面ではEUを、「国のようで国でない、しかし国でないようで国のようでもある。」と評し、 その曖昧さを、UFO(Unidentified Flying Object)になぞらえてUPO(Unidentified Political Object:未確認政治物体)と呼んでる、と書いている。
でも、ヨーロッパってしたたかだよね。そうやって生き残りの策をたて、実行する勇気があるのだから。 そんなことから、多分、少なくとも停滞し続けるということはないのではないだろうか、と思える。 ・・・小生も大歓迎だ。何故なら、思考法が我々と同じだから。 事実を事実と認めるという思考法は、世界的にはむしろ少数派ではないだろうか。 貴重なUPO(友邦)と思われる。
我々が信奉する思考法は公理に論拠した論証だ。公理は実験により検証された理論のこと。 その論拠の部分が曖昧では話にならない。だから、貴重なUPO(友邦)なのだと思う。
それから、もう一つ、「中国の姿、ありのままの理解を『自由』のリスク、恐れる指導者」(エズラ・ボーゲル)も面白い。 中でも、「米国流の考えでは、政府の権力を制限する『法の支配』が重要だが、中国ではそう受け止められてはいない。 国全体の利益を考えることができる強力な政府があれば、法の制約を受けない方が物事が早く進む、という考えが根強い。」 とある。
やはり、言い尽くされた言葉だが、「中国は法治国家より人治国家」なのかも知れないと思ったりする。 となると、人民が受ける不利益は「目的のための犠牲」(Collateral Damege)として見捨てられるのだろうか。 「コラテラル・ダメージ」という馴染みのない言葉はアメリカ映画の題名からの援用だ。シュワルツネッガー主演のアクション映画だが。 ・・・私のものの見方、どうやら悲観論的らしい。マイナス面に目が行ってしまう。
皆さん、よかったらご一読のほどを。 そして、本や映画や芝居や新聞雑誌の読後感などお寄せくだされば嬉しい限りです。
 
 
 
 
 
 
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