「健康診断が私たちを不幸にする」を読んで
石井俊雄
文藝春秋11月号、現在の最新号だが、これを読んでる内、面白い記事を発見した。
と、同時に、かなりの部分、同感する記事でもあった。
だから、お節介ながら、そのアブストラクト(抜粋版)を作ってみた。
記事の標題は、「健康診断が私たちを不幸にする」だ。
ざーっと目を通して頂き、面白そうだと思ったら、文藝春秋の本文をじっくり読んでみて欲しい。
医療費高騰の絡繰が見えてくるかも知れない。
更に、自分の今後の生き方にも有益な情報が得られるかもだ。
これが、大きい。何しろ、最後まで尊厳を失わないであの世とやらへ行きたいから。
- 問題提起
- 日本は「平均寿命」が世界一。
しかし、本当のところ、その中身は寒々しい。
というのも介護を受けず、自立して健康に生活できている「健康寿命」はずっと短く、
平均寿命との差は男性で9.1年、女性は12.7年(2010年)。
日本人は健康意識が高く、医療水準も世界有数というのに、どうしたことでしょう。
- 健康長寿願望や健診とクスリの蔓延が、
日本人の健康状態に影響を与えている可能性はないのだろうか。
- 比較試験
- 欧米には数千、数万の健康人を集めて二分し、
片方のグループは人間ドック的なことを行い、
他方は何もせずにおく「比較試験」がいくつもあります。
- そういう14の試験(そう対象者:18万人)の結果を解析したところ、
@がん、心筋梗塞、事故、自殺などあらゆる原因による死亡者をカウントした「総死亡」率、
A心臓血管病による死亡率、Bがんによる死亡率、
に変わりはありませんでした(BMJ2012;345:e7191)
- 要するに健診は無効で無意味なのです。
- 健診が健康や寿命に影響しないというのは、前記14の比較試験のように、
健診を「受けっぱなし」の場合です。
- 健診結果を受けて医者があれこれ指示し、
クスリを処方する場合はどうなのか(以下、「医療介入」とする。)。
- 医療介入を調べる比較試験がフィンランドで行われました。
40歳〜50歳の元気な男性管理職に健診を実施し、総コレステロール値が270以上、
中性脂肪が150以上、上の血圧が160〜200、
下の血圧が95〜115などの検査高値を示した1200人を選び出しました。
彼らを2グループに分け、片方は本人の自由にさせておく「放置群」。他方は、
医者が直接アドバイスする「介入群」。
後者では、医者が食事や運動量など指示して定期的に診察し、
検査値が改善しなければ降圧剤やコレステロール低下薬などのクスリが処方されました。
結果はというと、試験開始後15年間の総死亡率は、
介入群が放置群を46%も上回りました(JAMA1991-266:1225)。
-
介入群で死者が増えた原因として、クスリの影響のデータをみる
- 高血圧
- 欧米での比較試験
軽度の高血圧 : 総死亡率ではクスリの効果なし
中程度の高血圧 : 総死亡率が高くなる可能性が生じ、
80歳以上では、はっきり高くなった。
- 日本で行われた唯一の比較試験
70〜80歳、上の血圧が150〜180、
下の血圧が90〜100の329人を2群に分けています。
結果、総死亡率と心筋梗塞の発症数は変わらなかったのですが、
脳卒中の発症数はプラセボ群(偽薬を与えられた群のこと)が6人、降圧剤群の方が9人と、
クスリでは減らないどころか増えています。
「がん」の発症数も2人対9人と、降圧剤の方が多かった
(臨床医薬2000;16:1363)。
- コレステロール
-
総コレステロール値が高い「高脂血症」の日本人にコレステロール低下剤を処方しても、
総死亡率の低下は認められない。
-
そもそも総コレステロール値が高いと体に悪いという証拠はなく、むしろデータからは高い方がいいのです。現に日本の住民調査では、男性は総コレステロール値が高いほど総死亡率が低く、総コレステロール値が低くなるほど、総死亡率が高くなっています。女性では、総コレステロール値が標準的な場合も高い場合も総死亡率は変わらず、極端に低い場合に総死亡率が高くなります。
-
悪玉コレステロールと言われるLDLコレステロールや、中性脂肪にも、
高ければ体に悪いという根拠はなく、住民調査ではこれらが低いほど総死亡率が高くなっています。
- 糖尿病
- 糖尿病の目安としては、ヘモグロビン・エー・ワン・シーという検査値が重要です(以下、単に「ヘモグロビン」と略す。)。
- ヘモグロビンが6.5以上になると、糖尿病と判定されて治療の対象たりえますし、クスリを飲んでも高いままだと、インスリンが打たれることにもなる。これに対し6.5未満に下がると、医者から「優等生だ」と褒められるでしょう。
- ところが、英国での調査では、クスリを飲んでもヘモグロビンが10.5以上にとどまる人たちの総死亡率は高いものの、総死亡率が一番低かったのはヘモグロビンが7から9までの人たちで、ヘモグロビンが6.5未満になると、逆に総死亡率は上がっていました。この現象はインスリンで顕著となり、ヘモグロビンを6.5未満に下げた人たちの総死亡率は、10.5以上のそれと同程度に高くなっています(Lancet 2010;375:481)。
- 総死亡率が高くなるのは、クスリやインスリンによって生じる低血糖発作のためです。
- がん
- がん検診も健康人に重大な影響を与えます。ところが日本で行われている胃がん検診や肺がん検診は、欧米では行われていないのです。比較試験の結果、無意味と分かっているからです。
- 内視鏡による胃がん検診にも比較試験があり、検診すると胃がん発見数が放置群より増えるのですが、胃がん死亡は減りませんでした(Scand J Gastroenterol 1991;26:1020)。内視鏡で発見されるような胃がんは、放置しても人を死なせない「がんもどき」だからでしょう。
- 日本はというと、長野県の泰阜村が1989年に胃がん検診を廃止しました。すると、廃止前の5年間に村の総死亡の6%を占めた胃がん死亡が、廃止後の5年間では2%になったのです。
-
問題点
- 要するに、検診とその後の医療介入には、人の健康を損ない、寿命を短くする影響が確実にあり、プラス面は何一つ見いだせない。
- なぜ日本では、無効・有害な検診と医療介入が蔓延しているのか。人びとと医療界の双方に原因があります。
- 人びとの問題点としては、早期発見・早期治療神話に深く染まっていて、健診に効果があると信じ込んでいて、医者たちに対する無批判な、手放しの信頼があるように思います。
- 医療界の問題点としては、@「テンプラ医者」(白衣を着て立派に見えるが、知識や能力が足らず、安価な天丼のエビのように中身が貧弱)のオンパレード、A製薬会社の介入、B厚生労働省の思惑、C日本の人口構造などがあります。
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各問題点の概要
- テンプラ医者
- テンプラ医者は、戦争の結果の産物
。15年戦争で従軍軍医の必要に迫られた日本は、短い養成期間で大量の軍医を養成してしまい、戦後、彼らに医師免許を与えたので、日本には未熟な医者が溢れかえりました。
- 国民皆保険制度で開業医を主体とする日本医師会が開業医の既得権益を守り力を得た。
- 日本医師会は、医者の専門性を高めようとする動きを牽制した。
- テンプラ医者の典型的な診療方針はクスリ漬け。
- テンプラ医者は検査も大好きです。
- 人間ドックなどの健診もその発端は、テンプラ医者たちのデータを軽視した根拠なき思いこみにありました。欧米では比較試験してから健診の導入を決めようというプロ意識が行き渡っていたため、健診が開始されることはなかった。これに対し日本の人間ドックは、検査すれば何か役に立つのではないか、という程度の認識で始められたのです。そういう中に文化勲章受賞者の日野原重明氏がいて、人間ドック開始・普及の音頭を取っていたことに驚かされます(日本医師新報1994;3652:43)。
- 製薬会社の介入
- 降下剤・ディオバンで行われた臨床試験の不正のように、専門家たちに巨額の研究費を支給し、臨床試験でインチキするのが一例です。
- 医者たちは製薬会社の利益となるよう、
基準値も勝手に設定してきました。
例えば、高血圧の診療基準は、以前は上の血圧が160以下で、下の血圧が95だったのが、
2000年に日本高血圧学会が突如、根拠となるデータもなく、上を140、
下を90に切り下げたのです。・・・結果、降圧剤の売上も、以前は2000億円だったのが、
2008年には1兆円を超えました。
高脂血症でも、根拠なくコレステロールの基準値を低く設定したため、膨大な数の健康人がクスリを飲まされています。
- 厚労省の思惑
- 天下り先の確保のため新たな検診を創設する。
- 日本の人口構造の変化
- 人口減少によるパイの減少をカバーするため新たな検診を創設する。
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対応策
- 自らの体を信頼すること。理由は、人体は精妙な調節機構を持っているから。
- 食の見直し
- いきいきとした生活
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理想とする死に方
- ぽっくり逝く。脳卒中は生き残る可能性もあるのがリスク。
- がんに罹る。比較的短い期間で死ねる。周りも助かる。
- 点滴や胃ろうで強制的に栄養補給されるより「平穏死」を選ぶ。
- 人としての尊厳を保持すること。・・・これ一番大事。
- 生前に意思表明書(リビングウイル)を書いておく。
- 孤独死する。・・・直前まで自立できていたからこその孤独であり、孤独死であるわけで、死に方としては理想的かも知れない。
以上が、文藝春秋11月号のトップ記事「健康診断が私たちを不幸にする」のアブストラクトだ。
抜粋だから、小生の作は無い。全て受け売りである。
何故なら、私見を混ぜたら、読者にとって、どこが文藝春秋でどこが私見かわからなくなるからだ。
それでは、本文の魅力を知る上で障害となり、結果としてHPに取り上げた意味が無くなると思う。
でも、少しだけ私見を書かせて欲しいので、それを峻別して記すことにする。
以下が私見です。
6.対応策で3つ目に「いきいきとした生活」とあるが、それには幾つもの方法があると思うが、
手軽な方法として小生がお勧めしたいのは、何かを書く、という方法だ。
一例を挙げれば、この記事。これは、図書館でたまたま見かけた本の中の一文を要約し紹介するというスタイル。
これだと、余り、時間をかけず一文を作ることができる。
そして、それを作る間、頭が回転しハッピーでいられるのである。
だから、なんでもいいから、自分が面白いと感じたことを文章にして、本HPに掲載する、というやり方は、いきいきした生活の実践ではないかと思うのだ。
是非、試していただきたい。
もう一つ私見を述べる。それは、7.の中の「孤独死」のこと。
確かに、孤独死は寂しい死に方ではある。でも、自立、ということに価値を置くとしたら、
立派な死に方だと思う。
世間的には、非難されないまでも、哀れみを以て云々されるやも知れないが、
そんなのは表面だけの見方だろう。
小生くらいの歳になると、表面だけしか見ない見方に、苛立ちを覚えてしまう。
本質は何か、これを見通さないと、浅薄な正義だけが残ってしまう。即ち、自己満足という奴だ。
精々、自戒としなければならない。
この論文、文藝春秋の記事のことだが、を読んで、一番の驚きは、「健診は無効で無意味」という記述。
その次の驚きは、「総コレステロール値が高いと体に悪いという証拠はなく」、
「LDLコレステロールや、中性脂肪にも、高ければ体に悪いという根拠はなく」との記述。
これは、我々が一喜一憂する健康診断の結果の信憑性に疑問を投げかけるものだからだ。
更に、我々にとって、そもそも、「比較試験」なる用語に全くの馴染みがないこと。
というのは、小生のような理系思考の考え方によると、基準値の設定には、先ず、実験が先行し、
その結果を受ける形で、基準値が設定される、となるはずだと思っているわけだ。
なのに、現実は、その実験たる「比較試験」が行われていないようだ。
となると、基準値はどうやって設定したの?という疑問が生じるのだ。
役人と医療関係者(医者や製薬会社、ジャーナリスト、
政治家など)が適当に鉛筆舐め舐めでっち上げたとしか思えない。
となると大問題だ。何故なら、科学的根拠もなく、一部の人間だけで、恣意的に基準値を造った、
となるからだ。
この値がもたらす影響は大きい。数値を少し動かせば、たちまち年当たり数千億円の金が動く。
本文中での記述によれば、「高血圧の診療基準は、以前は上の血圧が160以下で、
下の血圧が95だったのが、2000年に日本高血圧学会が突如、根拠となるデータもなく、
上を140、下を90に切り下げたのです。・・・結果、降圧剤の売上も、
以前は2000億円だったのが、2008年には1兆円を超えました。」とあるように、数千億円、
それも年当たりの影響があるのだ。
これって、当に巨悪だよね。これでは、三億円事件の犯人なんて餓鬼だ。
何のリスクも負わず合法的にする金儲け、・・・呆れてものが言えないくらいだ。
それに、この搾取モデル、リピータブル(繰返し可能)だ。
ある基準値を選んで、数値をちょっとだけいじると、
濡れ手に泡の大金が手に入る、というノンリスク金儲けモデルだからだ。
この問題、この文藝春秋の論文を契機に、大々的に社会問題化すべきだと思う。
今すぐが駄目でも、いずれ、大きな問題に発展するだろう。
そうでないと、いずれ破綻するはずだ。かつての軍部独走が破綻したように。
それにしても、国の指導者レベルの知性が低すぎる。・・・段々劣化しつつあるのだろうか。
小生も身近な問題としてそう思った。
・・・歳とると、それなり色々なことが見えてくるものらしい。巨悪から小さな悪まで。
望んでいるわけではないのに。(2014/10/29 追記)
大分時間が経ったが今少し追記しよう。
それは、物事をどうやって決めたらよいかという問題だ。
例えば、「高血圧の診療基準」をどうやって決めるのが正解か、ご存知ですか?
小生は、比較試験の結果に従う、という方法が正解を得る方法だと思っているが、
本当にそうだろうか。
現に、我が国では、比較試験抜きで決められている。
この比較試験抜きで決める方法がよろしくない、としたら、どうしてよろしくないのか、
どなたか分かりますか?
欧米では、明らかに、比較試験の結果に従うという方法に依っている。
それは「実証主義」と呼ぶとすると、我が国で行われている方法は何?
「実証主義」に変わりうる原理原則があるのだろうか?無いのだろうか?・・・さっぱりわかりません。
政治学者か厚労省の役人にでも訊いてみたい。・・・多分、知らないだろう!意識してないと思う。
(2014/11/9 追記)
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- 追記:26/11/9
- 追記:26/10/29
- アップデート:26/10/27 [Return]