「原風景を復興する」を読んで

石井俊雄
月刊誌「世界」4月号目次
去る3月11日、三井所さんからメールを頂きました。
岩波書店から出版されている月刊誌「世界」の四月号に(これが復興な のか)という特集記事が組まれています。 その中に岩波の記者にヒヤリングを受けた私の話が7ページ出ています。 「原風景を復興する・・・生業の生態系とはなにか」というタイトルが 付いています。
とのこと。
それで、早速、その雑誌を読んでみました。
結果を小生なり抜粋してみます。抜粋だから加工はしません。選んで、そのまま転載するだけです。
最後に、少しだけ私見を書かせてもらいましたが、よかったらご覧ください。
  1. 概要
      雑誌「世界」の記者が三井所清典、益尾孝祐両氏へ行ったインタビューを記事にしたものである。 それによると、 「三井所さんは、1970年「アルセッド建築研究所」を設立し、佐賀県有田町の街づくり、 中越地震の被災地である新潟県旧山古志村の復興などに関わってこられました。 今日は、三井所さん、アルセッド建築研究所の研究主任益尾孝祐さんに、地域の風景や、 職人を大事にする街づくりの実践をめぐってうかがいます。」 と記されています。
  2. タイトル
      原風景を復興する
  3. 記者が発する質問
    • 東日本大震災の被害の特徴、住宅再建の課題についてお話いただけますか。
    • (回答)
      1. 東日本大震災では、面的に被害が広がった地域が多く、町全体、住宅地全体を復興する必要が生じました。 今回の復興では、地形の条件に配慮しながら、 それぞれに個性のある住環境をトータルに再建しなければならなくなったわけである。
      2. 東日本大震災からの復興では、技術やハードの事業が先行して、 コミュニティ再生のソフト事業の視点が抜け落ちていることも問題と思います。
    • 応急仮設住宅についてはどうお考えですか。
    • (回答)
      1. 事務所のスタッフたちも設計を行って、住宅や配置のプランを、希望する工務店や設計者に無償で提供しました。
    • アルセッド建築研究所ではどんなプランを考えられたのでしょう。
    • (回答)
      1. 山古志村では、仮設住宅へ集落単位で入居する方法がとられ、 知り合い同士が近所に住んでいるという関係が保たれました。 ・・・ いつも人の気配を感じて、会話したりするような生活体験を仮設でしたことが、 山古志のいまの復興に凄く役に立ってるという印象があります。
      2. 今回の東日本大震災では、このようなコミュニティ施設が併設されている仮設住宅はほとんどありません。 阪神・淡路大震災や中越地震の教訓を活かすことなく、抽選で入居者を決めるところも多かったともいいます。
      3. 建築教育では、良いものをつくる、ベストをめざすという発想で課題を解決します。 しかし、非常時に必要とされる技術として、どうすれば頑丈で、孤立を招くことのない住宅を、 迅速にかつ安く作ることができるのか。 ・・・もっと議論し、トレーニングをつんでおく必要があると思います。
    • 三井所さんは、仮設住宅のあとの本設住宅(復興住宅)について、 地元の工務店を組み込んだ供給の仕組みを提案されています。
    • (回答)
      1. 当時の長島忠美村長(山古志村)は、過疎が進行している地域に大量の復興公営住宅を建設しても、 将来的に大量の空家を抱えることになるのではないかと心配され、 自立再建支援住宅を重視する考えを持っておられました。
      2. そこで、私が最初に提案したのは、柱と梁による伝統的な軸組構法で住宅をつくることでした。 ・・・ (手っ取り早い鉄骨住宅では、)近くの工務店は、鉄骨住宅の扱いに精通してないので、 ・・・結局手を入れられなかったりということも起こり得ます。
      3. もう一つの提案は、新築住宅の仕上げを急がずに、未完成の状態で残しておくことです。 一気に完全な住宅をつくってしまうと、その後大工の仕事はなくなる。すると、大工のいない、 言わば住宅にとっての無医村状態になる。
      4. 震災から1年目のシンポジュームで、「山古志再建イメージ」のパネルを作って会場の外側に展示しました。 イメージが与えた影響は、私たちが予想するより大きかったようです。 長島村長は、「みんなで山に帰ろう」と強く呼びかけていましたが、 その目標が具体的なイメージとして村民の方々に共用されたのではないかと思います。
      5. 風景を復興する、ということを強調しています。 みんなバラバラに選択して家を作ると、新築住宅が立ち並んだあとに、 えっ、これが東北の町なの? というような、調和のない町になる。
      6. いっさい新規の町ができると、頭の中の故郷の地図が描けなくなる。 それは自分の支えを失うようなことかもしれません。
      7. コミュニティの再建、それから、街の景観を過去と連続させていくことは、 もっと政策のなかで強調されてよいと思いますし、 結果的に、被災した人のこれからの人生にも大きく影響するものです。
    • 地域の生産体制に目を向けてこられた理由
    • (回答)
      1. 建築は10年で買い換えるような耐久消費財ではなくて、超長期の耐久消費財です。 この超長期の耐久消費財をきちんと守ることのできる社会でなければならない。 私はそういう社会の実現のためには「生業の生態系の保全」が必要と言っています。
  4. 私見
    以上が、「世界」4月号の記事「原風景を復興する」からの抜粋だ。 抜粋だから、小生の作は無い。 何故なら、私見を混ぜたら、読者にとって、どこが「世界」からの記事でどこが私見かわからなくなるからだ。 それでは、本文を知る上で障害となり、結果としてHPに取り上げた意味が無くなると思う。 でも、少しだけ私見を書かせて欲しいので、それを峻別して記すことにする。 以下が私見です。
    人は生まれてこのかた、ある環境に囲まれて育ったはず。 それが、一朝にして全く新しいものに変わったとしたら、どんなものだろう。 おそらく、困惑し途方にくれるのではないだろうか。 乗り越えられる人もいれば、戸惑いのまま彷徨う人もいるだろう。 三井所さんは、環境が激変する人への優しい環境を提案されているのだと思う。 それも、実現可能にして持続可能な解としてだ。 感じられるのは、「優しさ」だな。素晴らしい。
    また、建築教育では、非常時に必要とされる技術が必要と提案されている。 「住」という観点から、素晴らしい提案だ。
    この他、小生、復興とは何かと考えるとき、「食」もあると思う。 被災者の生業を担保すること。一言で言えば、食えるようにする、ということだ。 そのところは、今、自己責任で片付けられているが、何とか保全できる方法はないものだろうか。
    もう一つ、「住」に関しての願望だが、歴史認識を忘れない、だな。 思えば、三陸海岸は、過去、何回も大津波に襲われている。 よって今回のことは、その史実を忘れていたとしか思えない。 数千人の犠牲者を出し、中でも、大川小学校の場合は悲劇の極みだ。 泣かないようにすべきだろう。方法は、歴史認識の継承だ。
    この忘れっぽさ、短所でもあるが長所でもある。でも矢張り、短所>長所、だな。
    この間、亡くなられた陳舜臣さんが、「日本的中国的」というエッセイ集に書かれているが、 氏に言わせると日本人は、応急措置・・・悪く言えば、局所弥縫策が得意、とか。
    最近のテレビ見てると、ますますその得意技が冴え渡ってるように見える。心しなければと思う。
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    コメント
    三井所清典
    ありがとうございます。
    「原風景を・・・」を読んでいただいたうえに、友人の皆さんに内容の紹介、コメントまでしてもらって 感謝のいいようがありません。

    石井俊雄さんが言う通り、食の復興はとても大事です。そのために「生活復興」を重視したいのです。
    山古志の場合は、棚田の復興、錦鯉の養殖の復興、酪農等のための牛飼いなど仕事の復興に出来るだけ早く 村民達が着手するのが良いと思いました。そのためにも住宅は安く、早く、小さめに地元で手慣れた方法で 復興する事が望ましいと思った次第です。

    また、最近強く感じている事は、日本人にとって必要な日本の建築学、日本の各地のふさわしい建築とはどんなものかを 知る建築学が欠けている事です。
    ご存知の通り、尊敬する先達辰野金吾以来、日本人は殆ど西洋建築学ばかりを追っかけて来ました。明治維新の一等国への上昇、 不平等条約の解消など国の時代の使命を背負った人々の涙ぐましい努力は大いに多とします。忘れてはならない事です。 ただ、国際的地位が上がり、充分豊かになり、日本人の心の一部は世界に高く評価されている現在、日本の良さを もっと上手表現できるようになりたいと願っているところです。
    それを私は佐賀・有田のまちづり以来、「地域に根ずいた住まいづくり、まちづくり」といっています。

    仮設住宅の建設にも復興住宅の建設にも、その配慮を欠かさないようにしたいと願っています。

    絶滅危惧種となっている日本の建築に携わる匠たち、大工、左官、瓦つくり・瓦葺き師、畳屋、建具屋、襖屋などの匠達に 仕事の機会を増やす運動にご協力下さい。
    世界遺産になった「和紙づくり」に勝るとも劣らない日本の無形文化財と思います。
    「生業の生態系の保全」に関わる事です。
    (2015/03/15 19:13)

    • アップデート:27/3/14      [Return]