補償光学
2022/4/27 石井ト
数日前、久し振りに図書館に行った。
特に見たい本があったわけではなく、何かあれば見てみようかな、という程度の図書館行きだ。
要するに冷やかしである。
いつものように「日経サイエンス」を見たが、2022年2月号に、面白い言葉が出ていて、
興味を覚え、借りて、拾い読みした。
興味を覚えた点は、「補償光学」という単語。
普通、「補償」というと、損害補償とか生々しい浮世のいざこざを思わせる。
だが、今回のは「光学」という浮世離れした言葉と対になって使われている。
それで、興味を覚え借りたというわけだ。
家で数日この本のことは忘れていたが、昨日の雨の中での部屋ごもりの退屈まぎれに拾い読みしたのだ。
その結果をレポートする。
「補償光学」とは何か : ネットから情報収集・抜粋
- ウイキペディアより
補償光学(ほしょうこうがく、英: Adaptive Optics「適応光学」)は、宇宙から地球を撮影したり、
地球から宇宙を撮影したりするときに問題となる大気の揺らぎを解決するために開発された光学技術である。
その構成から「波面補償光学」といった言われかたもしている。
宇宙望遠鏡に頼ることなく望遠鏡の回折限界までの高精度な観測が可能になるため、
惑星や小惑星などの観測に用いられて衛星の発見など新たな発見がもたらされた。
- 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
地上の望遠鏡の天体観測において、大気のゆらぎで生じる星像の乱れを補正する光学技術。
具体的には、星像の乱れ(位相変化)を波面センサーで計測して、その結果に応じて可変形鏡を変形させることで波面を元に戻し、
対象となる天体像を回折限界まで復元させる技術である。
波面補償光学ともいう。日本では、すばる望遠鏡において36素子補償光学系を使い実用化された。
しかし、恒星のような点光源の場合なら、波面測定は比較的容易であるが、銀河のように広がった淡い天体の場合、
波面測定がむずかしいことが問題であった。
それを解決するために観測する天体の方向のすぐ横の大気中にレーザーにより星のような点光源(レーザーガイド星とよぶ)を発生させ、
そのレーザーガイド星からの光により波面測定を行い、波面を補償する方法が開発された。ただしレーザーガイド星は、
補正に必要なデータを得るガイド星がみあたらないときに、そのかわりとして使われる。
現在すばる望遠鏡では188素子補償光学系とレーザーガイド星生成システムにより、太陽系外惑星からの光の直接検出、
銀河形成史の解明などの領域で大きな成果をあげている。
- デジタル大辞泉の解説
地上の望遠鏡による天体観測で問題となる大気の揺らぎを、電子的・光学的に補正する技術。
大気の揺らぎをセンサーで捉え、その揺らぎを打ち消すよう、望遠鏡の鏡面を能動的に変形することで鮮明な星像が得られる。
波面補償光学。
応用分野 : 日経サイセンス2月号から抜粋
宇宙の彼方にある天体を研究するために開発された技術が、地球の直ぐ近くの空間を利用する技術の発展に貢献し始めた。その応用分野は次の通りだ。
宇宙技術の高度化に道
- 補償光学は、地上から望遠鏡観測で問題となる大気揺らぎによる天体像のボケを補正する技術だ
- 地球を周回する人工衛星や宇宙ゴミの追跡や観測に、この技術を利用する動きが出ている
- 次世代の通信技術である、衛星を利用した長距離の量子暗号通信への貢献も期待されている
原理 : 日経サイセンス2月号から抜粋
- 波面の歪みとは
密度の異なる空気が混ざり合うことで起こる大気ゆらぎによって、波面の各部が遅延し歪みが生じる。波面が焦点に到達するタイミングがずれる結果、
ピンボケ画像となる。
- 形状可変鏡は
形状可変鏡は、駆動装置で鏡を変形することが出来る鏡のこと。
- 補償光学による補正原理
-
波面が歪んだ光が補償光学系に入って、形状可変鏡に当たる。
-
その一部が波面センサーに送られ、波面の歪み具合を調べる。
-
ノイズキャンセリング原理で、歪みを反転した波面のパターンを生成する。
-
形状可変鏡を構成する多数の駆動装置が動き、反転した波面を再現するように鏡面が調整される。
-
新たに到来した、波面が歪んだ光は、調整済みの形状可変鏡で反射される際、波面の歪みが調整され、平坦な波面を持った反射光となる。
所感
- 「補償」とは
岩波国語辞典に拠れば、「補償」とは、「損害・費用などを補い償うこと」とあるから、成程!だ。
確かに、大気の影響で光線が傷むという損害を技術で償っている。
- 乱視
波面の歪みという現象は人の眼でも起こる。乱視だ。
但し、人の眼の場合、角膜が正しい球面をしていないために光線が網膜上の一点に集まらず、物の形をはっきりみることのできない眼のことだ。
宇宙望遠鏡の場合は、人の眼が角膜の歪みが原因なのに対し、光線そのものが歪むという点が違うが、
何れも網膜や写真画像などのマン・マシン・インターフェースにおいては補正されていなければならない点で同じだと思う。
- 形状可変鏡のソフト補正
なお、今は、というかスバル望遠鏡では、形状可変鏡を構成する多数の駆動装置が動き、反転した波面を再現するように鏡面が調整されるとなっている。
所謂、ハードウエアの工夫で補正するというものだ。だが、今はソフトウエアーの時代。画素一点一点のレベルでソフト補正が出来ればいいのではないかと思う。
多分、存在するのではないだろうか。知らぬは私だけで。
- 宇宙ゴミ
応用分野で、地球を周回する人工衛星や宇宙ゴミの追跡や観測に、この補償光学技術を利用する動きが出ているとある。
環境問題に資すとは有難い。
- 次世代の通信技術
衛星を利用した長距離の量子暗号通信への貢献も期待されているそうだが、通信技術の進歩って面白そうだね。
・・・も少し若ければ、そしてもっと頭が良ければ、挑戦したいものだ。
- 言葉の抽象化
小生が一番驚いたのは、この「補償」という言葉の使い方だ。従前は人間の生活用語だったものが、
自然科学用語に拡張された有力な例だと思う。
日本語ってどちらかと言うと、概念を表す言葉が英語などに比べて少ないと思う。
言葉が場面と結びついて固まってしまうのだ。
例えば、英語の"access"という言葉、この言葉が表す概念を持った日本語はない。
また、英語の"commit"も同じだ。
小生の理解するところでは、言葉の概念化は、その言葉を生み出した国民の抽象化思考を反映したものではないかと思うので、
日本人の抽象化思考の乏しさが示されてる例だと思う。
だが、今回の「補償光学」の出現で、「補償」という言葉の抽象化が示されているので、愉快至極。
段々、そんなのが増えればいい。要するに、目先に見えた場面限定の思考では、世界的にはローカルな国に留まるとなるだろうからである。
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