日経サイエンス5月号抜粋

石井ト
イントロ
昨日、久し振りにいった図書館で、面白い見出しの「日経サイエンス」を見つけた。今年の5月号だ。 曰く、「宇宙究極の謎 暗黒エネルギーに新説・・・」とある。 取り合えず借りて、中身を吟味したところ、次の2点の記事に興味を覚えた。
  1. 十倉好紀 「常識を覆す新物質ハンター 固体物理学に革新の波」
  2. 「変容する暗黒エネルギー 超弦理論が示す新たな予想」
この号は、最新号ではなく3か月ほど旧いものだが、まだまだ賞味期限内。 一読して分からず、2読して、3読しても分からないが、その革新性に鑑み、エッセンスを抜き出して紹介します。
世の中、必ずしも現在の延長線上にはないことを告げていると思うので、良かったらご参考までにご一読下さい。
  1. 十倉好紀 「常識を覆す新物質ハンター 固体物理学に革新の波」
    1. 抜粋
      1. 総論
        固体物理学の世界で静かな「革命」が起きている。 電子が強く相互作用を及ぼし合う「強相関電子系」の物理学を基礎に既成概念を覆す新物質が次々と見つかってきた。 理化学研究所創発物性科学研究センター(CEMS)を率いるセンター長の十倉好紀は先駆者。 「創発的電磁気学」と呼ぶ新たな学問の建設を目指す。
        • 固体内の電子が互いに強い作用を及ぼす強相関電子系の物理学を開拓
        • 既成概念を打ち破る物性を示すさまざまな新規物質を発見してきた
        • 未来の情報処理やエネルギーに繋がる新電磁気学の構築に力を注ぐ
        「磁石がくっつく。誰もが当たり前だと思っているが、こんな不思議なことはない」と十倉は言う。 身の回りにあるありふれた磁石(強磁性体)は隣り合う電子のスピンが同じ向きに整列し、全体として強い磁力を作り出している。 これは量子力学的な現象が室温で発現していると云える。 量子現象という点では、極低温で量子力学が顔を出した電気抵抗がゼロになる超電導と基本は同じだ。
        量子力学的な現象が個体の表面や内部で不思議な姿をまとって現れる。 十倉がセンター長を務める理研の創発物性科学研究センター(CEMS)は、 そうした新規な現象を創発的に生み出す様々な物質を量子力学的な理論を軸にして次々と発見している。 その中でいま最も世界の科学者から注目を集めているのが「スキルミオン」だ。
        スキルミオンは磁石の中で、数千個の電子スピンが集まり、安定したひとつの粒子として振る舞う。 直径は数nmから100nmほど(石井ト註:nmは10-9m)。 スキルミオンを構成する電子スピンは渦状をなし、周辺は上向きスピンだが、中央に近づくに従ってスピンは徐々に横向きに倒れ、中心では下向きになっている。
      2. 次世代メモリーが実現可能
        スキルミオンは非常に微弱な電流によって移動させることができ、スキルミオンの有無を情報の「1」「0」に対応させれば、極めて大容量で、 低消費電力の次世代メモリーが実現可能と期待される。
        CEMSでは、スキルミオンに関する基礎研究に取り組むとともに、物質・材料研究機構(茨城県つくば市)と連携してメモリーへの応用の道を探っている。
        物質の創発的な働きは蒸気機関や原子力などの従来システムとは異なるエネルギーに繋がる。 十倉はいま、スキルミオンと並んで「トポロジカル絶縁体」と呼ぶ物質に注目する。
        電子の状態をトポロジー(位相幾何学)の視点から理解することで「まったく新しいステート・オブ・マター(物質の状態)が見つかり、 既知の現象も新たな顔を見せる」と十倉。 トポロジーの視点は固体物理学に新しい革新の波をもたらしている。2016年のノーベル物理学賞では、 トポロジーの概念を最初に固体物理に持ち込んだ科学者が栄誉を手にした。
        固体物理学は量子力学の目で物質内の多体相互作用を調べる科学だといえる。「多」が集まるとそこに新しい物性が自然に出てくる。センター名にある創発だ。
      3. 使命は新電磁気学の建設
        新たなコンセプトを具現化する物質を見つける。飽くなき追求の繰り返しで強相関電子系の世界に沃野を切り開いた。 十倉の視線の先に「第3のエネルギー革命」を据える。 蒸気機関、原子力と異なり、力学的なエネルギーを介さないで、個体・分子間の電子の創発的な働きを情報処理やエネルギー転換に直接利用する。 それが新たなエネルギー革命をもたらすとみて、その基盤となる「創発的電磁気学」の建設がCEMSに課せられた使命。十倉はそう考えている。
    2. 所感
      1. 強相関系物理学について
        世界は大まかに言えば3つの階層からなる。(石井ト註:この区分は、冒頭で記した 2つ目の記事「変容する暗黒エネルギー 超弦理論が示す新たな予想」から援用)
        • 1つは、超マクロ世界の宇宙。観測可能な範囲は100億光年。1026mの世界だ。
        • 2つめは、ミクロの素粒子の世界。陽子の半径の1万分の1、約10-19mの微細世界だ。
        • 3つめは超弦理論で想定されている超ミクロの「ひも」の世界。素粒子の実体は長さが10-35mのひもで、 ひもの振動モードの違いが素粒子の違いになる。
        このように考えると、超マクロの世界も、超ミクロの世界も、我々の実感からはかけ離れた世界で、経験が役に立たないことが起こっても可笑しくない。 このような隔絶した世界を研究し新物質やエネルギーを開発する研究者に敬意を表したい。 特に、「創発的電磁気学」が建設されれば、19世紀後半、イギリスのマックスウエルがマックスウエル方程式を発見して電磁気学を創建して以来の快挙となる。 そのマックスウエルでさへ、磁石のもつ磁力の原因までは発見してない。磁力の大本が電子の創発現象にあることが解明されたように、 超ミクロの世界への挑戦、何が飛び出すか期待が膨らんでくる。頑張って欲しいものだ。
        強相関系物理学は、人類にとって宝の山だろう。・・・経験では計れないほどの。
        今、室温34.5℃の書斎でこの記事を書いている。書いている内は暑さを忘れるから、避暑とも言える。何もしないのに比べると天国にいるようだ。 灼熱天国だが。
      2. 人材について
        十倉は兵庫県西脇市生まれ。子供のころ、学習雑誌『小学3年生』の別冊「ノーベル賞を受けた人たち」を読んで科学者を志した。 東京大学に進学すると、「講義の難解さと周りの人たちの優秀さに圧倒されてしまった」。そんなときに思い出したのが、ある大学教授の言葉だ。 「科学者としての才能のジャンプは25〜26歳で起こる。あるとき、泥をかぶった地蔵から、さっと泥が落ちて、突如輝きだす」と話した。 「とにかく25歳まで頑張ろう」。 そう思い込んで勉強を続けるうち、次第につらさが消え、サイエンスの楽しさがわかってきた。
        これは、本記事からの引用だが、とても面白い。特に面白いのは「才能のジャンプは25〜26歳で起こる」というところだ。
        才能と自走と環境の3条件が、人材育成の鍵、ということだろう。
        特に環境については、革命的な改革が必要ではないだろうか。 最近、テレビで、インド工科大学の情報処理技術者育成コースを見て、人材とは環境次第だと思うようになった。 今の延長上をだらだらと引き継ぐだけでは、いずれ衰退するだろう。
  2. 「変容する暗黒エネルギー 超弦理論が示す新たな予想」
    これは、超ミクロの世界を語る超弦理論を、超マクロの世界観測から証明しようとする話だが、またにする。
    天国にいるのも疲れる。もっとゆっくりがいい。
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