「すべてが許される」世界
2022/4/10 石井ト
去る4月15日(金)、毎日新聞「特集ワイド」に、「ロシア文学者 亀山郁夫さんの見方(前編)」と題する論文が載っていた。
小生、予てから、この度のウクライナ戦争を仕掛けたロシアという大国とはどのような考え方をする国なのか知りたいと思っていた。
そこへ、今回の亀山論文を目にし、少しだが分かったような気がしたので、本論文から、主要点を抜粋して紹介し、最後に小生の所感を記すことにした。
良かったらご一読の上、ご意見などお寄せください。
抜粋:亀山論文より抜粋
- 「神がなければ、全ては許される」という世界
今回の戦争から受けている衝撃をひと言で、と求められても言葉が出てきません。
強いて言えば、ドストエフスキーの小説「カラマーゾフ兄弟」に出てくる、
「神がなければ、全ては許される」という言葉でしょうか。
この小説は、3人の兄弟がいるカラマーゾフ家で起きた父親殺しを軸とする物語なのですが、「神がなければ・・・」のひと言は、
父親殺しを正当化するセリフとして暗示的に用いられています。神がいないのだから、すべては許される、というロジックに反転するわけです。
- 自立の観念のない世界
「すべては許される」というアナーキーな精神性は、ロシア人の精神の闇に深く通じています。
ドストエフスキーは、若い時代、反政府活動の罪でいったんは死刑判決を受け、その後、シベリアに流刑となりまいたが、
そこで彼が目撃したのは、民衆一人一人のたくましい精神性であると同時に、彼らの魂の奥に潜む闇でした。
いったんその闇に落ちはじめたら、堕落はとどまるところを知りません。
逆にそうした自覚があるからこそ、彼らは、強い神、強い支配者を中ばマゾヒスティックに待ち望んできたといえるのです。
それは必然的に、個人の自立を著しく遅らせていきました。自立の観念のないところでは、他者の自立に対する想像力も生まれません。
更に付言すると、「神が無ければ」のひと言は、今回のキーウ郊外ブチャで起こった虐殺の事実にも深く通じています。・・・
思えば、戦争いや戦場こそが、まさに「すべては許される」の世界でもあるのかもしれません。
- 「新ユーラシア主義」の世界
新ユーラシア主義とは、かつて社会主義の理念で結ばれた旧ソ連の版図を、統制経済とロシア正教の原理で一元化し、西欧でもアジアでもない、
独自の精神共同体とみなす考えです。そこでは「正教の帝国」という観念こそあれ、国境の概念が希薄なのです。
ただしこういう思考法は、プーチン独自のものではありません。300年の歴史をもつ右派のメンタリティーそのものです。
ノーベル賞作家のソルジェニーツィンまでがこの願望に取りつかれていました。
核となるのはロシア、ベラルーシ、ウクライナの3国の一体化です。
グローバリズムに完全に乗り遅れ、資源大国から一歩も先に歩み出せない焦りが、精神共同体の夢の強化に拍車をかけたといってもよいでしょう。
所感1:戦争の原因
- この度の戦争は、「神がなければ、全ては許される」という世界、しかも「自立の観念のない」世界で起こった
「新ユーラシア主義」が原因の戦争だと思う。
その背景には、井上説がいう「グローバリズムに完全に乗り遅れ、資源大国から一歩も先に歩み出せない焦りが、
精神共同体の夢の強化に拍車をかけたといってもよいでしょう」という点にあると思う。
ソ連崩壊後、西欧世界へのアプローチを試行した時期もあったが、いざ入ってみると、違和感を感じたのではないだろうか。
違和感とは、西欧世界の枠の中では大国ロシアを維持できないと実感したことだ。
その結果、西欧世界に見切りをつけ、その外に独自の世界をつくりその中で生きていくという選択をしたのだろう。
その独自の世界で生きるという考えが「新ユーラシア主義」というものだろう。
従って、この戦争は大国ロシアの生き残り策が起こした戦争と言えるとなる。
- もう一つは、人気取りだろうと思う。
所感2:戦場での「惻隠の情」の薦め
「神がなければ、全ては許される」という世界は我々とは相当違うなというのが第一感。
何処が違うかと言えば、斯かる世界には、「惻隠の情」が抜け落ちているということだ。
「惻隠の情」とは、他人を思いやる心のこと。「慈悲」とか、「スポーツマンシップ」とか言えばいいだろう。
この言葉は、孟子が性善説の立場に立って人の性が善であることを説き、
続けて仁・義・礼・智の徳(四徳)を誰もが持っている4つの心に根拠付けた。
その説くところによれば、人間には誰でも「四端(したん)」の心が存在する。「四端」とは「四つの端緒、きざし」という意味で、
それは、
- 「惻隠」(他者を見ていたたまれなく思う心)
- 「羞悪」(不正や悪を憎む心)または「廉恥」(恥を知る心)
- 「辞譲」(譲ってへりくだる心)
- 「是非」(正しいこととまちがっていることを判断する能力)
の4つの道徳感情である。この四端を努力して拡充することによって、
それぞれが仁・義・礼・智という人間の4つの徳に到達するというのである。(以上:ウイキペディアより抜粋)
従って、戦場においては「惻隠の情」即ち、人を思いやる心や「慈悲」、「スポーツマンシップ」、「武士の情け」などが必要である。
だが、本題からは外れるが、「辞譲」の譲ってへりくだる心と云うのは頂けない。差しで接するのにへりくだりなんてナンセンス。
ここいら辺が中国哲学がハウツーものと評される所以かもだな。
所感3:この戦争から我々が得るべき教訓:自衛戦力と集団安全保障が必要
「神がなければ、全ては許される」という世界、しかも「自立の観念のない」世界があるという現実を直視すべきである。
そして、他人まかせではなく自ら立つという気概と、自衛戦力と集団安全保障が必要。
所感4:大国ロシアのこれから
今、ロシアが起こした戦争に対し西欧世界を中心に制裁が行われている。
だが、資源大国なので制裁の効果は当面限定的だろうと思う。
だが、グローバリズムに完全に乗り遅れ、資源大国から一歩も先に歩み出せない状態が改善されるかと言えば疑問が残る。
大国は誰しもが認めることであるから、それにふさわしい振舞いを期待したい。そしたら、ずーっとよくなるだろう。
戦後、日本が応援した国は今や大きく発展し経済大国になっている。日本と平和条約を結び、協力し合えばいい。
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