ロボット・人工知能(AI)革命

石井俊雄
去る6月7日(土)の朝日新聞朝刊に面白い記事が載っていた。
見出しは、「人工知能 米追う中国」、副題には「世界に50人 専門家争奪」とある。
出だしのところを少しだけ抜粋すると、次のようになる。
コンピュータが自ら考える人工知能(AI)を巡り、いま世界的な頭脳争奪戦が繰り広げられている。 人工知能の中で、特に奪い合いになっているのは「ディープラーニング(DL)」と呼ばれるプログラムの専門家たちだ。
人間は、目に飛び込んできた情報の中から色を感じ、色の点がつながった線を見分け、更に線に囲まれた形を読み取る。 そして、形の中から『人間の顔』などの図形を認識し、男女などの微妙な差も識別する。 人間の顔だとわかれば、それを『夫の顔』などと判断する。 DLは同様に、段階を追って認識していく。
DLとは、ここに書かれているようなことを、誰に教えられるでもなく、自らの判断で、認識する能力のことを言う。
ここでのキーワードは、「自らの判断」ということ。 現在のコンピュータは、「自らの判断」の部分が出来ない。 だから、そこのところを人間が指令してやらなければいけないのだ。 その指令の部分が「プログラム」である。
DLでは、そこのところを自ら、即ち、自律的にやることになる。 人に指令されて動く他律型と自ら行う自律型では、動作原理においてまったく異なるものであると云える。
では、何故、今頃、DLがもてはやされるのかといえば、 インターネット世界が日々産み出すビッグデータと相性がいいからだ。 DLはその大量のデータを、のみ込み、賢くなっていく。何故なら、自ら判断する自律能力を持っているからだ。 上記の記事では、次のような例を挙げている。
フェイスブックは今年4月、さまざまな顔の画像から個人を特定する技術「デープフェイス(DF)」を発表した。実験には、フェイスブック上の顔画像440万点を利用した。 もとになったのは4030人の顔写真だが、それを読み込んだDFは、 横顔の画像から正面の顔を推定できるようになった。
とある。そして、
データをのみ込めばのみ込むほど進化する人工知能は、 何れ人間の知性を超えるのではないかという予測も出始めている。
と書いている。
このような記事に啓発されて、ネットなどで調べると、色々出ている。 興味のある方は、 例えば、 ここなど分かり易いのではないかと思うので、覗いてみられたらいいと思う。
更に、先月だが、本HPに『「無人機 乗っ取りを防げ」を読んで』と云う記事を掲載したが、あれは、端的に云えば、 兵器のロボット化の話であった。 この記事に限らず、どうやら、世の中、ロボット世界の実現に向けて大きく舵を切ったようだ。
今日、たまたま、銀行に行ったが、順番待ちの間に、「週間ダイヤモンド 6/14」を手に取った。 表紙を飾るのは、「ロボット・AI革命」だ。一冊の前半分はロボットで埋められた特集号である。
その中で、
オバマ大統領は2011年6月に「国家ロボットイニシアティブ」を発表している。 日本も同様に、ロボット産業を成長戦略の柱に掲げている。 安倍首相は今年5月6日、パリで開かれた経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会で 「ロボットによる新たな産業革命を起こす」と宣言した。
とあり、更に、その中の次の記事が目に留まったので、ご参考までに抜粋しておく。
  1. 2035年の市場規模
    大分類中分類2035年(億円)
    製造分野従来型産業用ロボット11,027
    次世代型産業用ロボット16,267
    食品産業>3,382
    医薬品産業-
    化粧品産業-
    ロボテク(RT)
    製品
    家電/住宅設備5,579
    自動車7,370
    船舶729
    鉄道128
    建機1,750
    農機/農業1,722
    林業872
    農林水産分野農業927
    漁業・水産養殖業1,142
    サービス分野医療948
    介護・福祉4,043
    健康管理3,297
    清掃4,287
    警備4,321
    受付・案内465
    荷物搬送3,110
    パーソナルモビリティ9,656
    物流7,530
    検査・メンテナンス2,018
    教育450
    アミューズメント1,222
    レスキュー670
    探査811
    ホビー2,157
    家事支援858
    見守り・コミュニケーション341
    合計97,080
    出所:平成22年度ロボット産業将来市場調査(経済産業省(NEDO)
     
  2. コンピュータ化で奪われる職種
    コンピュータに
    代替される確率(%)
    ローン貸付担当者98
    受付係96
    法律事務員94
    小売販売員92
    タクシー運転手89
    警備員84
    コック(ファストフード)81
    バーテンダー77
    個人向け投資アドバイザー58
    コンピュータプログラマ48
    貴社・特派員11
    音楽家・歌手7.4
    弁護士3.5
    小学校教師0.4
    内科医・外科医0.4
    出所:オックスフォード大学「The Future of Enployment」
     
  3. 人工知能が人間を超える日
    人工知能が人間を超える日「シンギュラリティ」は近い。 2029年には世界は脳のリバース・エンジニアリング*を終え、人工知能は人間と同等の能力を持つようになり、 45年には人間の従来の理解力を超えた超人工知能が生まれる。 この「シンギュラリティ(特異点)」説を唱えて人々を驚かせたのは、レイ・カーツワイル氏だ。 この説の内容に興味のある方は、ここをクリックして、 開いた画面の中の「シンギュラリティについて語るレイ・カーツワイル(日本語字幕付)」 を見てください。結構、面白いから。
  4. 情報革命
    それから、ご参考までに書いておきますが、ソフトバンクの孫正義さん。 この方が語られる 「SoftBank新30年ビジョン」という講演も、ロボット化の未来を予測した強力な援軍として面白いと思います。 チョット長いけど、言葉使いも明確で論旨もしっかりしていて分かり易いです。 流石、あれだけの仕事をする人だと思えてくるし、動画ですので、ご覧になれば参考になると思います。
    この動画では、ソフトバンク30年先の姿を語っておられます。30年先にも、「情報革命」一本で行くそうです。
    更に、その動画の終わりの部分には、孫さんの生い立ちについて独白された部分がありますが、面白いですよ。 一読の価値は十分にあると思います。
    抜粋すると、彼の戸籍は、佐賀県鳥栖市五間道路無番地で1957年に生まれ、そこで育ったそうです。 御祖母さんは韓国から14歳で日本に来られたとか。生活は大変だったが、一念発起して起業し成功したことを、 声をつまらせながらも淡々と、語られています。
    良かったら、ご一覧ください。 私はといえば、その偉さへの感動で一杯でした。
    そう言えば、昨日の朝日新聞の「耕論」の中の「リレーおぴにおん」欄に面白い記事を発見しました。 書いた人は、豊崎由美さんというライターにして書評家の方。題名は「愛すべきダメ男たち」です。
    曰く、
    漱石の小説に出てくる主人公は皆、ダメ男ばかり。 漱石が読み継がれている理由のひとつは、現代にも通じるダメさを描いているからなんじゃないですか。 日本でも海外でも、面白い小説にはダメな人間が登場します。それは人間の基本型がダメだからです。 ダメを抑えるには我慢しかないんですが、我慢強くて思慮深い人って、だいたいつまらないですよね。 そういう人を主人公にしても、やっぱりつまらない。 人間は多少ダメな方が面白い。ものすごくダメだと困りますけど。 漱石の主人公のような「ちょっとダメ男」くらいが一番いいです。
    この伝で云えば、「フィクション」を面白くするのが「ちょっとダメ男」なら、 ノンフィクションを面白くするのは、「我慢強くて思慮深い人」だと言えるでしょう。 孫さんは、当に、その我慢強くて思慮深い人。しかも実在の人です。とても面白いと思いました。
以上の資料から、少し私見を書こう。
ソフトバンクの孫さんは、脳型ロボットと呼んでおられたが、要するに、自分の判断で動く、所謂、 自律型ロボットは、今後、指数関数的に伸びて行くと予測されている。小生もその通りだと思う。
そんな中、私の期待は、介護型ロボットの実用化だ。 寝たきりになっても、お風呂に入れてくれたり、散歩に連れて行ってくれたり、飯食わしてくれたり、 掃除・洗濯など、介護される側が気兼ねなくお世話になれるロボットがほしい。 そうしたら、気兼ねはストレスを発するから寿命を縮める可能性もあるが、 そうでなければのうのうとなって寿命が延びるかもしれない。
もう一つ欲しいのは、感情を持ったロボットだ。 孫さんは、人型ロボットのゴールは、感情を持ったロボットを造ること言っておられた。 死ぬまでに、それが見てみたい。 でも、恐らく出来ないだろう。 何故なら、自律はできても自立はできないからだ。 自立とは生存ということ。 生存がないところには報酬が無い。 報酬が無ければ欲望が無い。 欲望が無ければ感情は無い、だろう。 ロボットにとって、報酬とは何だろう? 人間にとっての報酬とは「生き残る」ということだろうが、ロボットは所詮、人工物。 スイッチを押せば済むことなのだ。 もっと、ディープなところから湧き出すものに魅せられる、人間で言えば、「報酬野」みたいなものがないと、 自立はないだろう。 ・・・でも、ロボットに「報酬野」が付けば、面白いよね。
少し追記しよう。それは、「報酬野」という言葉のこと。 この言葉を聴いたのは、今月の確か4日か5日かだが、NHKのテレビで、麻薬中毒を取り上げた番組で使っていた。 そこでの、記憶によると、人間の脳には、よろこびに反応する脳の領域があるそうだ。 それを「報酬野」と呼んでいた。面白い言葉だよね。いままで聞いたことがないので新鮮味もあるし。 ただ、番組では音声で聴いただけなので、漢字がどのようなものかは分からない。小生が、多分、 こんなものだろうと思って充ててるだけのものだ。
それで、「報酬野」をキーワードとして検索してみた。グーグルやヤフーでだ。 結果、「報酬野」という言葉は出てこなかったが、「報酬系」という言葉は多用されていた。 中でも、 分かり易い部分を抜粋すると、次のように書かれたました。
脳には報酬に反応する「報酬系(reward system)」と呼ばれる一連の領域があります。 中脳にある腹側被蓋野(ここはドーパミンを脳内に放出する起始核になっています)、 その投射先である側坐核を含む腹側線条体、 前頭葉の一部である眼窩前頭皮質や内側前頭前皮質などが報酬系を構成しています。 報酬系が活動すると、個体に快をもたらすと考えられています。
だから、「報酬野」という言葉は「報酬系」と読み替えてもらった方がいいかもしれない。 中身は同じだから、そのままでもいいが。
兎に角、肝心なことは、脳に報酬に反応する「報酬系(reward system)」と呼ばれる一連の領域があるということだ。 これを、電子回路に置き換えるとしたら、大仕事だよね。見当もつかない。 だいたい、人間の場合、報酬とはドーパミンをもらうことだ。人間社会ではお金だけど。 人間はお金をもらうと動くという動作を行うよね。 脳はドーパミンをもらうと脳細胞が何らかの動きをする?のかな。 であれば、電子回路の場合、報酬をもらうと、チップがある動きをする、というストーリーだろう。 でも、このストーリーでは、報酬となるものは何?とか、ある動きとは何?とか、具体的な物理現象が不明だ。
・・・兎に角、報酬とは自立体にとってのメリットであるはずなのだが、それが見当もつかないのだ。 ま、専門家の研究結果を待ちましょう。
更に、少しだけ追記しよう。
ドーパミンについてだが。
我々、生命体について考えるとき、何が、生命体にとって重要かと言えば、兎に角、存続し続ける、ということだろう。 別な言葉で言えば、「生存」だ。
で、「生存」のために何が必要かと言えば、生きるために必要な行動をする、ということだろう。 と、なると、生命体としては、自身の存続のためにとる行動に、報酬を与えることは、 その生命体にとって意味がある、ということになる。
今までのドーパミン研究では、ドーパミンニューロン(ドーパミンを産生する神経細胞のこと)は、 そのような行動の動機付けに関連して活動を増やすことが分かってきたそうだ。 ( 「脳内物質ドーパミンのはたらき」 2、ドーパミンは脳のどこで作られるか? を参照のこと。)
要するに、一言で言えば、「ドーパミンとは、脳に対して、やる気を出すように指示をする物質だ。」ということである。
従って、ドーパミンこそは、人間社会でのお金に相当する脳内のお金、と言えそうだ。
これを、電子回路に置き換えるとしたら、大仕事だよね。見当もつかないと書いたことの繰り返しとなる。 本当に、電子回路にやる気を出させるって、どうすればいい? その前に、何のために、というところを明らかにしなければならない。 電子回路は死なないから、生存という概念はあてはまらない。・・・であれば、それに替わる概念のものは何?
何かのことを調べているとき、ついでみたいにして怖いことを見つけることがある。 この場合は、上の、「脳内物質ドーパミンのはたらき」の「8、加齢とパーキンソン病 」というところだ。
私たちが持つ「年寄りらしさ」のイメージを極端にするとパーキンソン病患者さんそっくりになります。 万事がスローモーで、物覚えが悪くなり、ちょっと前かがみになって歩き、転びやすく、 震えが来たりするのはドーパミンが減少していることと無関係ではありません。 そういう意味でパーキンソン病は一部の不幸な人の病気ではありません。 私たちが元気で活動的な老後を送るためにもパーキンソン病の原因を突き止めることは重要なことなのです。
とあるのだから、ロボットの感情、なんてことより、そっちを先にやってもらいたいよね、 その方が生存により役立つはずだから、となる。 ・・・そう思うことが感情というものの本質かもしれない。比較というプロセッシングだ。
例えば、「花が散って悲しい」とは、花が咲いている状態に比べて得るものが少ない、 という意味で悲しいとなる。 悲しいとは、得るものが少ない、ということを言い表した言葉ということになる。 そのようなことで、感情の根底には比較、というプロセスが横たわっていると思う。 であれば、人間は、基本的には自己中だということになる。何故なら、 比較の基準(尺度と言ってもいい)が自己利益だからだ。
人生とは比較の連続と言える。 比較を選択と言い換えてもおかしくないので、人生は選択の連続とも言える。 人生の悩みとはこの選択でどちらを選ぶか、ということだろう。 だから、その悩みは、自己中との折り合いの付け方ということになる。 となると、国家とか法律とか宗教とかはそれを補完するもの、と言えるだろう。
さて、感情を持ったロボットにとって、比較の基準(尺度と言ってもいい)は何だろう。 自己利益だと怖い。採り得る選択肢から、攻撃という選択肢を削除できるだろうかが問題だ。
自己利益ではなく、遵法ということかも知れない。 そうなると、当に、十戒を授けられたユダヤの民みたいになるが、怖いよね、異教徒が出たりして。
以上から、ロボットに感情を持たせるのは考えもの。 多分、人類の利益に反するだろう。 だから、自律型ロボットまでにして、自立型ロボットは止めた方がよいと思う。 だが、そうなると、自立型ロボットが持つかも知れない天才的なひらめきは期待できなくなる。
考えてみれば、若し、自立型ロボットが出来たとして、その瞬間に、人類は、新たな隣人を迎えることになる。 エイリアンと同じだ。 いままで、有史以来、人類は、人間以外の知的生命体に会ったことがない。 そこに新たな知的生命体が生まれるのだから、お付き合いが生じる。 お付き合いは、何らかの相互作用を招来し、軋轢となるかも知れない。 軋轢が生じないとしても、それが長続きするという保証はない。
一度、軋轢が生じると、大変だ。 相手は、人間の能力の成長を遥かに凌駕する早さで成長する可能性が大だから、多分、紛争が生じると、 人間側が譲歩することになるだろう。 段々して、終に、地球を追われる、となるかも知れない。 だから、自立型ロボットは要らない。自律型は要る。
自律型は、生存(生命)という概念を持たないから、その必然として、自己増殖しない。 だから、コントロール可能だと思う。
(*)「リバース・エンジニアリング」とは、既に出来上がっているものを分解・解析することで得られた結果を、 新しいものに移植すること。 ここでは、人間の脳の仕組みを解析し、結果をロボットの脳に移植すること、となる。
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