日米軍艦の兵装比較

 
石井俊雄
先日、9月25日だが、横須賀に軍艦を観に行ったのは既報の通りです。
その後、閑潰しに、そのときの写真などを眺めているうち、兵装について日米の軍艦に聊かの差異があることに気付いた。
それで、日米の似たようなクラスの軍艦の兵装を抜書きし、下表に表してみた。これは、何れも、公開されているネット上の情報から抜き出したものだ。
 
日米軍艦の兵装比較表
No.兵装米海軍
ラッセン (ミサイル駆逐艦)
就役 2001年、排水量 9,648 トン
海上自衛隊
きりしま (護衛艦)
就役 2001年、排水量 9,485トン
1艦載砲Mk.45 mod.4 5インチ単装砲 ×1基 127mm54口径単装速射砲 1門
2艦艇用近接防御火器システム(CIWS)Mk.15 20mmCIWS×2基k15Mod2ファランクスCIWS 2基
3艦載機関砲システムMk.38 25mm単装機関砲 ×2基 @
4重機関銃M2 12.7mm機銃 ×4挺 A
5垂直発射装置Mk.41 mod.7 VLS ×96セルMk41 VLS 90セル
6対空ミサイル* スタンダードSM-2 SAMB
7対空ミサイル* ESSM 短SAMC
8対潜ミサイル* VLA SUMD
9巡航ミサイル* トマホークSLCME
10魚雷発射管Mk.32 3連装短魚雷発射管×2基68式324mm3連装短魚雷発射管 2基
11対艦ミサイルFハープーンSSM4連装発射機 2基
12曳航式デコイG曳航式デコイMod4
13弾道弾迎撃ミサイルHミサイル防衛対応
 
 
丸数字@〜Hは、空欄につけた番号である。空欄は当該艦において当該兵装が無いことを意味する。番号は説明し易くするために付けたものであるが、この表から次のことが言えると思う。
@は、海上自衛隊の護衛艦「きりしま」に艦載機関砲システムが装備されていないことを示す。
Aは、海上自衛隊の護衛艦「きりしま」に重機関銃が装備されていないことを示す。
Bは、海上自衛隊の護衛艦「きりしま」に対空ミサイルが装備されていないことを示す。だが、対空ミサイルは、No.5の「垂直発射装置」の90個のセルの何れかに装備されている可能性があるので、対空ミサイルが装備されていないとは断言できない。
Cは、海上自衛隊の護衛艦「きりしま」に対空ミサイルが装備されていないことを示す。だが、対空ミサイルは、No.5の「垂直発射装置」の90個のセルの何れかに装備されている可能性があるので、対空ミサイルが装備されていないとは断言できない。
Dは、海上自衛隊の護衛艦「きりしま」に対潜ミサイルが装備されていないことを示す。だが、対潜ミサイルは、No.5の「垂直発射装置」の90個のセルの何れかに装備されている可能性があるので、対潜ミサイルが装備されていないとは断言できない。
Eは、海上自衛隊の護衛艦「きりしま」に巡航ミサイルが装備されていないことを示す。だが、巡航ミサイルは、No.5の「垂直発射装置」の90個のセルの何れかに装備されている可能性があるので、巡航ミサイルが装備されていないとは断言できない。でも、巡航ミサイルを装備したという話は聞かないので、装備していないと思われる。
Fは、米海軍のミサイル駆逐艦「ラッセン」に対艦ミサイルが装備されていないことを示す。だが、対艦ミサイルは、No.5の「垂直発射装置」の96個のセルの何れかに装備されている可能性があるので、対艦ミサイルが装備されていないとは断言できない。
Gは、米海軍のミサイル駆逐艦「ラッセン」に曳航式デコイが装備されていないことを示す。「曳航式デコイ」とは、偽装標的のことである。装備していないと思われる。
Hは、米海軍のミサイル駆逐艦「ラッセン」に弾道弾迎撃ミサイルが装備されていないことを示す。 No.6の「スタンダードSM-2」は対空ミサイルで、弾道弾迎撃ミサイルは「スタンダードSM-3」である必要があるのだ。
 
 
公開されたネット上のデータから言えるのは以上だが、思うことは、@やAのように、日本の軍艦は従来型の機銃とか機関砲とか艦載砲とか、 火薬を砲内での爆発させて弾を打出す方式の兵器(以下、「在来型火器」と呼ぶことにする。)を装備していないが、大丈夫かな?ということ。
米軍にあってわが国にはないのが気に掛る。何しろ、太平洋戦争ではコテンパにやられたのだから、疑い深くなっているのだ。
 
旧軍は、大鑑巨砲趣味で小物には目もくれなかったようだが、海上自衛隊でもそのカルチャを引きずっているのではないの?
小物には小物の使い道があるはず。そこいら辺の配慮、欠いているのではないのかな?
相撲で言えば、白鳳も内懐に入られて前三つ取られたら苦戦を余儀なくされる。 特に、テロや海賊行為が日常化している地域ではあらゆる可能性を考慮すべきではないのか。 その点、米軍は流石だと思う。自艦防御に誠実に対応している。
確かに、艦艇用近接防御火器システム(CIWS)を装備している。でもこれは、6銃身のゼネラル・エレクトリック社製20mmガトリング砲を用い、 捜索・追跡レーダーと火器管制システムを一体化した完全自動の防空システムであり、主に対艦ミサイルからの防御用だ。的が大きい。
海賊やテロリストのモーターボートに毛の生えた程度の船には不似合なのではないだろうか。
不審船らしいのがフラフラと近づいて来たらどうするの?20mmガトリング砲でバラバラとやりますか?あっという間に沈没してしまうでしょう。
不審船と断定できる場合ならそれもいいが、大概は、明確ではないはず。そんな場合は、機銃程度で舵を壊すとかするのが適当ではないのかな。 間違いなら後で破壊部分を直せばいいから。
不審船対応装備、無い理由が分らない。海上保安庁の仕事だと思っているとしたら甘い。
自衛隊は、信頼回復のためにはもっと実戦的な厳しさを体現し、積極的にPRや情報公開すべきだと思う。
 
 
思うことの二つ目は、「きりしま」が持つ「ミサイル防衛対応」兵装。頼もしい限りだ。
でも、日本におけるミサイル防衛は、「きりしま」が単独で出来るほど容易いものではない。 司令部、早期警戒衛星、在日米軍のミサイル監視機、日本のミサイル監視機、警戒管制レーダー、通信回線網、 中間航程に対する迎撃部隊(イージスBMD)、終末航程に対する迎撃部隊(パトリオットPAC-3)、 等、大規模なミサイル防衛システムが必要で、単に「きりしま」が頑張る話ではない。その辺のところは、ネットでは次のように書かれている。
日本が保有しているミサイル防衛資産のうち、最初に交戦することとなるのが、 イージスBMDシステムを備えた海上自衛隊の海上構成部隊と在日米海軍である。 在日米海軍は横須賀港にアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「フィッツジェラルド」、「カーティス・ウィルバー」、「ジョン・S・マッケーン」、 「ステザム」、「ラッセン」、「マスティン」「マクキャンベル」を弾道ミサイル監視艦として、 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「シャイロー」を弾道ミサイル迎撃艦として配備している。
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「シャイロー」の兵装をネットで見ると、確かに、弾道弾迎撃ミサイル「RIM-161スタンダード・ミサイル3 (RIM-161 Standard Missile 3; SM-3)」が装備されているのがわかる。 と同時に、「シャイロー」には艦載砲、機関砲、機銃、などの「在来型火器」もバッチリ搭載されている。
蝿たたきから弾道弾迎撃ミサイルまで使って、しっかり護ってもらいたい。税金も喜んで納めるから。
この短文は、初め、日本の軍艦が従来型の機銃とか機関砲とかの在来型火器を装備していないことに懸念を覚えたことに始るが、 段々、ネットで調べるうちに、今や個々の軍艦の装備が問題なのではなく、いろいろな防衛資産を糾合した大規模なミサイル防衛システムが大事であることに気がついた。 これからは、更にロボット兵器も登場する。益々、システム思考能力が問われることだろう。 自衛隊、頑張れ!
 
 
以上、米海軍の「ラッセン」 (ミサイル駆逐艦)と海上自衛隊の「きりしま」 (護衛艦)を比較したが、ミサイル防衛システムに於いては、前者が弾道ミサイル監視艦、 後者が弾道ミサイル迎撃艦、という役割分担であることが分ったから、本当は、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「シャイロー」と「きりしま」を比較すべきだったかもしれない。 小生、書き始めたときは、ミサイル防衛システムについて識らなかったので、許して欲しい。 書き直すことも考えたが、また、1日かかるので、とりあえずこのまま掲載する。気が向いたら追加するかも知れない。
 
 
最後に一言付け加えたい。 それは、いろんな兵器が艦載されているが、若し、海軍の水兵になったとして、どの武器を担当したいかときかれたら、君ならどれをとるかな? 小生なら、迷わずNo.3の機関砲手だな。 計器を見てボタン押すだけなんて詰まらない。それより機関砲手がいい。自分で照準して引き金引けるから。 一度やってみたいものだ。
でも、世の中の方向はロボット化だ。米軍は既に無人偵察機「グローバルホーク」を実戦配備している。 この無人機は、2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故の際には、被害状況の把握の為、施設上空を短時間飛行した。
また、RQ−1「プレデター」(Predator, 英語で捕食者、略奪者の意)はジェネラル・アトミックス社製の無人航空機や、 プレデターを改良した機体としてMQ−9 リーパー、MQ−1C グレイイーグル、アヴェンジャーの3機種が存在する。 主な任務は偵察やヘルファイアミサイルによる対地攻撃(武装型のMQ−1のみ)で、 1995年の配備以降ボスニア(セルビア)、アフガニスタン、パキスタン、イラク、およびイエメンで作戦に参加している。
RQ−1のRは偵察(=Reconnaissance)、Qは無人機を意味するアメリカ国防総省の名称であり、1は無人偵察航空機の第1作目であることを意味している。 また改良で武装の搭載が可能になったことを反映して2005年にRから多用途を意味するM(=多用途、マルチ)に名称を変更してMQ−1となった。
日本でも、「遠隔操縦観測システム」というのが、 配備されているようだが、見るからに頼りない感じがする。「グローバルホーク」や「プレデター」に比べたら、おもちゃだ。 偵察用だから武器は積んでない。高度も低い、機銃の射程範囲だ。ヘリコプターだから速度も遅い。音もする。航続時間も短い。 農薬散布用に毛の生えたように見える。 最前線の部隊様限り箱庭用という感じだ。 構想力が小さいと言わざるを得ない。
何故そうかと言えば、構想力というのは、云わば夢のような衣を着けて現れてくるが、それをくみ上げる人材が無いと言うことだろう。 くみ上げる人材に必要なのはインテリジェンス、そのインテリジェンスに弱いのだ。 それに出る杭は打たれる体質では構想力は育ち難い。「少し、人材に多様性を持たせた方がいいのではないの!」と言いたい。 ・・・無理だろうが。国内や外国のシンクタンクと契約すると言う手もある。 だが、その結果をくみ上げて活かす人材がいないとどうしようもない。であれば、米軍のインテリジェンスに依存するしかないだろう。 そうなるとまるで電子装置のオペレータだ。使い方を操作マニュアルで勉強すれば誰でも出来るという単純作業者に成下る。
それから、もう一つ、福島第一原子力発電所事故の際には、被害状況の把握の為、米軍の無人偵察機「グローバルホーク」は施設上空を短時間飛行した。 なのに、何故、自衛隊の「遠隔操縦観測システム」は動かなかったのだろう。 これは、多分、個別にはいいものを持っているが、それが統合された形で活かされないという国としての危機管理対応能力の欠如の所為だと思われる。 宝の持ち腐れだ。これじゃいざというとき、格納庫に収まったままで、破壊されてしまうことになり兼ねない。 やはり、このシステム統合化の面でもインテリジェンスが欠如しているらしい。
空では以上のように無人化、ロボット化が進んでいる。 当然、陸でも海でも、ロボット化は進むだろう。 そして、いずれ、最前線での戦いはロボット対ロボットということになる。 そうなると、戦の仕方が以前とは劇的に変わるだろう。 勇気よりインテリジェンスの時代になる。 この時代に必要なのは人材、調整型の人材ではなく、戦略型の人材が必要だ。 そのような場合を想定し、わが国も、インテリジェンス力をつけて、国防力に後れをとらない様にして欲しい。 やられてから、「想定外だった」は東電だけで沢山だ。
 
 
 
 
 
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