忖度政治

石井ト
過日、日本学術会議の委員任命見送りの件で、「科学と国家」なる記事を書いて、 日本学術会議が2017年に出したは「軍事的安全保障研究に関する声明」なるものを批判したが、 今回、一昨日、2020年12月17日の毎日新聞朝刊の6面に載った「排除する政治:学術会議問題を考える」中島岳志・東京工業大学教授の記事を読み、 菅総理の「任命否認」への説明不足が齎す問題に気付いたので、その記事から、問題の核心部分を抜粋して、レポートします。 今まで、説明不足だとは思いながら、大したことはないと多寡を括っていたが、それはそうでもないようだと気付いたから、そうしたものです。
  1. 抜粋
    この記事は、中島岳志・東京工業大学教授(「甲」という)に対し、聞き手の浦松丈二氏(「乙」という)が問いかけ、甲が答えるという形で進行しています。
    • 抜粋1
      問:6人を任命しなかった菅首相の狙いをどう見ますか?
      答:菅さんの狙いは忖度を加速させること*1でしょう。理由を明らかにしていないことがポイントです。 理由を明かさないことで「あの時の発言が引っかったのではないか」「いやあの発言だ」と周囲が詮索し、自主規制のハードルを上げてしまいます。 明確な理由が提示されないほど、忖度は加速するのです。
    • 抜粋2
      問:官房長官時代には官僚支配が恐れられました。
      答:菅さんの特徴はなんといっても先ず「人事」です。・・・(中略)・・・野党時代に書いた自らの著書「政治家の覚悟」の中で、手の内を明かすように次のように述べています。
      <人事権は大臣に与えられた大きな権限です。どういう人物ウをどういう役職に就けるか。人事によって、大臣の考えや目指す方針が組織の内外にメッセージとして伝わります。 効果的に使えば、組織を引き締めて一体感を高めることができます。とりわけ官僚は「人事」に敏感で、そこから大臣の意思を鋭く察知します。>
    • 抜粋3
      問:それにしても105人の推薦者から6人が選ばれた理由が分かりません。誰が見ても立派な研究者だと思います。
      答:そこです。いずれも穏やかな論客とみられています。だから狙われたのでしょう。6人が政治色の鮮明な左派だったとしたら、 あいつは極端な反政府論者だから引っかったのだ、と思われて安心させてしまう。 寧ろ穏やかな論客であれば、殆ど自分も当てはまるところがある、と思うでしょう*2。よく考えているなと思います。・・・(中略)・・・要するに委縮がおきてしまう。
    • 抜粋4
      問:学問の自由まで委縮したら日本の民主主義、国力は発展しないのでは。
      答:科学コミュニティーの戦争協力の反省から発足した学術会議は、その歴史からも、政府が科学技術を使って暴走することをチェックする役割を担っています。 やはり菅さんは学術会議が邪魔だと思っているのでしょう。学術会議は基本的には政府のチェック機能ですから。
    • 抜粋5
      問:科学者たちに軍事研究をさせたいのでしょうか。
      答:大学や研究機関が軍事研究に加わるような方向性を持っているのは事実でしょう。しかし菅さん自身に軍事研究への強いこだわりは感じられません。 それより熱心なのは、携帯料金の値下げと、それにリンクしたデジタル庁の新設です。 この二つはセット、リンクしたものと考えた方がいいでしょう。値下げを訴えることによって、大衆の支持、世論のバックアップを手に入れて、 デジタルを扱う企業や団体に介入していく。これは菅さんが繰り返し使ってきた手法です。
      ・・・(中略)・・・
      菅さんの周囲には警察官僚がたくさんいます。世論を味方につけ、関連企業に介入し、デジタル庁を新設し、非常に効率的に情報を入手していく。 スマートフォンの利用などによってデジタル化された個人情報を効率的に収集できるようになれば、フーコーのいう支配がより簡単になるのではないでしょうか*3。 ・・・(中略)・・・そうすれば皆が服従する。そんな社会が目前まできているのです。
  2. 所感
    それは主に、次の3点。
    • 任命拒否の理由:上記*1の太字の部分
      任命拒否の理由を明示しない菅さんの狙いが、忖度を加速させることとなると、問題だ。 陰険なやり方だと思う。結果、皆、上の顔色伺うようになり、組織は活気をうしない停滞するだろう。 もっと自由闊達に言いたいこと言う組織が望ましい。それが活性化した組織の特徴だから。
    • 任命拒否の人選:上記*2の太字の部分
      任命拒否の人選が、いずれも穏やかな論客とみられていること。結果、殆ど自分も当てはまるところがあるとなり、委縮が起る。 このようなことを意図的に実行する人が総理だとしたらわが国は委縮するだろう。
    • デジタル化された個人情報:上記*3の太字の部分
      デジタル化された個人情報が国民レベルの忖度を呼ばないか心配。嘗ての大政翼賛のような政策の可能性を失くす有効な仕掛けは在るのだろうか。
     
  3. 提言
    このように陰険な方法を採らず、堂々と理由をのべて、やるべき改革を実行すべし。
    この「堂々と」をとは、理性や科学による論理的な思考をするということだ。 ドイツのメリケル首相のようにである。彼女の出自は物理学者だ。物理学の思考方法は、論理第一主義。感情や忖度とは無縁の思考方法だ。 この論理が通用する思考世界が科学である。 この理性と科学が国民レベルで通用することが大事だろう。日本には義理人情という対局の世界があるが、私は、両立可能だと信じている。
    学術会議の改革は必要だと思う。理由は、もっと現実世界を直視した活動をすべしということだ。
    即ち、1950 年に発した「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明が有意な世界から、現実世界に踏み出すべし。 方法は簡単だ、理性と科学を適用すればいい。
     
  4. あとがき
    この毎日新聞の記事がフェーク(嘘)ではないと信じて書いたもの。 匿名ではないのが、情報ソースの正当性の証拠であるとしたものだ。
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