- イントロダクション
あなたが将来認知症になるかどうか、それをいち早く見極める鍵はあなたの歩き方にあるということが分かってきた。
歩く速さを測ることで、将来認知症になるおそれが判定できるのです。
何故なのか、最近、脳の中に特別なネットワークがあって、それが衰えると認知症になることがわかってきました。
しかもそのネットワークの衰えは、あなたの歩き方に現れると言います。
でも、ご安心ください。
衰えをいち早くとらえてある対策をとればなんと認知症を予防できる可能性が明らかになってきたのです。
この方法は認知症を防ぐ最も確実なものといえるのです。
更に、認知症の発症を食い止められる薬も次々と登場しようとしています。
認知症は最早防ぎようのない恐ろしいものではありません。
最新科学によって認知症を予防する微かな道が見えてきたのです。
あなたとあなたにとって大切な人の未来を守るため、認知症の予防に挑む最前線に迫ります。
- MCIとは
人の認知機能は3つにわけられる。
「正常」、「MCI(軽度認知障害)」、「認知症」だ。
MCIは認知症の予備軍。日常生活に支障はない。仕事もできる。
専門医の話によるとMCIは、対処のしようによっては治るとのこと。
- MCIはラストチャンス
今、MCIなら治るという研究が続いています。
アメリカの研究機関が、MCIと診断された600人からどれくらいの割合で認知症になるか追跡調査を行いました。
その結果、5年間で、
MCIの5割が認知症になる
MCIの4割が現状を維持する
MCIの1割が正常に戻る
という結果になることがわかりました。半数が認知症にならなかったのです。MCIは認知症を予防するラストチャンスなのです。
- 自分がMCIかどうか、どうすればわかる?・・・MCIの早期発見!
島根大学教授山口修正さん、脳の働きをとらえることに成功した。
何をするにも脳の離れた複数の場所が全く同じタイミングで活動していることがわかった。
この離れた部分の繋がりは「脳内ネットワーク」と名付けられました。
例えば簡単な計算をするネットワーク、視覚ネットワーク、感覚ネットワーク、運動ネットワーク、など、脳内には様々なネットワークが存在しています。
それらが協力して働くことで私たちの脳は様々な機能を果たす仕組みになっているのです。
この脳内ネットワークの状態は誰でも年齢とともに変化することがわかっています。
高齢者になると、このネットワークの繋がりが部分的に弱くなり構造も変わってくる。
このネットワークの繋がりが弱まるほど認知機能が低下することが明らかになったのです。
実はMCIの人の脳内のネットワークに異常が起こっていることが明らかになってきました。
米国のワシントン大学を中心とする研究チームは、脳内ネットワークの繋がりの強さに着目、
その変化がMCIから認知症へ進んでいくにつれどう変化するか調べました。
するとMCIの人は正常な人と比べ年相応以上にネットワークの繋がりが弱まっていたのです。
更に、認知症へと進むとネットワークの繋がりの強さは急速に弱まっていきます。
この脳内ネットワークの弱まりをいち早くとらえることこそMCIを早期に発見する鍵なのです。
- 早期発見の簡単な方法
この早期発見の簡単な方法がアメリカのアルバート・アインシュタイン医科大学の研究で見つかりました。
それはなんと歩行です。
正常な人とMCIの人の歩き方を比べると、MCIの疑いのある人は歩く速さが遅くなっています。
更に、センサーで足の運び方なども測定しています。
MCIの疑いのある人は正常な人に比べ歩幅が狭くなっています。
更に、足の裏にかかる圧力が一定でなく、ふらつき易いことがわかります。
脳内ネットワークが弱まると何故歩行が不安定になるのでしょうか。
実は、脳内では、視覚や空間認識に関する脳内ネットワークが働き、刻々と変化する周囲の状況を瞬時に判断しています。
更に、バランスをとるときは、体の感覚や運動に関する脳内ネットワークが働きます。
こうした沢山の脳内ネットワークが瞬時に働くからこそ、私たちは歩くことができています。
ところがMCIの人は脳内ネットワークが弱まっています。
そのため歩くのが遅くなったりバランスが不安定になったりすることがあるのです。
- 歩行データと認知症を発症するリスクの関係
アルバート・アインシュタイン医科大学教授ジョー・バギーズさん
いろいろな情報が脳に入ると運動やバランスを司る脳の部分に送られます。
そうして情報処理を脳が無意識の内に滞りなく行うからこそ、私たちは歩くことができる。まさに奇跡です。
だから脳内ネットワークに問題が生じれば歩行やバランスに問題が起きるのです。
研究グループは、実際に世界の17か国27,000人の歩行データと認知症を発症するリスクの関係を調べました。
その結果、歩く速さがある基準より遅い人は認知症の割合が1.5倍に、更に記憶力の低下の自覚があれば、2倍に増えることがわかりました。
- 認知症になるリクスの高い人を見分ける目安
ではどのくらい遅くなると認知症のリスクが高くなるのでしょうか。
ジョー・バギーズ教授によると、年齢と性別によって違いますが、私たちの研究では、歩く速さがおよそ秒速80cmより遅くなることが目安です。
これで、認知症になるリクスの高い人を見分けられます。
秒速80cmとは時速2.9km。周りの人に追い越されたり、横断歩道を渡り切れない速度です。
あなたは心当たりありませんか?
- MCIの人に見られる変化の例
更にアルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームは、より正確に認知症のリスクを見分けられる方法も編み出そうとしています。
MCIの人に見られる変化の例
- 外出するのが面倒
- 外出時の服装に気を使わなくなった。
- 同じことを何回も話すことが増えたと言われる。
- 小銭の計算が面倒、お札で支払うようになった。
- 手の込んだ料理を作らなくなった。
- 味付けが変わったと言われる。
- 車をこすることが増えた。
3項目以上当てはまる人は「物忘れ外来」など専門医に相談を。
- 認知症を予防する最新対策
イリノイ大学のアート・クレーマー教授は衰えた脳内ネットワークを回復させる効果的な方法を見つけ出しました。
あることを1年間つづければ脳内ネットワークの繋がりが大きく回復したのです。
その方法は驚くほど簡単。→歩くことです!
- 歩き方にポイントがある
息が弾む程の早歩きを1回1時間、週3回、たったそれだけで脳の血管や神経細胞に驚くべき変化が起きることが分かりました。
早歩きをすると、
VEGF(血管内皮細胞増殖因子)が多く放出され、傷ついた血管の代わりに新しい血管を作るよう促します。
更に早歩きによってBDNF(神経栄養因子)という物質も増えます。
この物質は、脳内で新しい神経細胞が増えるのを促します。
こうして脳内ネットワークの繋がりが強くなると考えられるのです。
- 早歩きの他にいくつかのプラスアルファを
フィンランドの「認知症予防フィンガー研究」はMCIの疑いのある人1260人が参加し、
- 筋力トレーニング
- 食生活改善→魚、野菜は抗酸化物質が多く含まれ神経細胞が傷つくのを防ぎます。
- バターをオリーブ油などの植物油に変える。
- 毎日の血圧管理→微小出血を防ぎ脳内ネットワークを守ります。
- 記憶力トレーニング→1回10分 週3回
などを行った。
実施者は生活改善を始めて心も体もよい状態ですと言い、
フィンガー研究の結果 認知機能が平均25%向上した。
カロリンスカ研究所(スウェーデンのストックホルムにある医科大学。カロリンスカ医科大学とも呼ばれる。医学系の単科教育研究機関としては世界で最大)
教授ミア・キビベルトさん
- 記憶力を向上させ認知症の危険を減らすことは可能なのです。
- 認知症予防を始めるのに遅すぎることはない。
- 認知症予防薬の研究
日本では、認知症予防薬の研究が進んでいます。
国立循環器病研究センター長猪原匡史さん
- 「シロスタゾール」(薬の名前)がMCIの人の認知機能低下を止められるのか治験を始めた。
- 「シロスタゾール」は現在脳梗塞の再発防止薬です。
- この薬は、脳の血管からの出血を防ぐなど神経細胞、脳内ネットワーク、を守る効果が期待されている。
- この薬は、2015年夏から臨床試験開始し、2021年、日本で実用化の見込み。
- より早期介入というのが常識になる時代が来て欲しいと思います。
アメリカでも認知症予防の研究