後期高齢者の風景 後期高齢医療保険地獄

 
石井俊雄
小生の誕生日は4月10日だから、後期高齢医療保険地獄を早々に見てしまった。 同期の中でも早い方の一人だろう。 その地獄は逃げようのない完璧で完成されたものだった。
その風景をHP上にて披露する。 同情が欲しいわけではない、余計なお世話かも知れないが後に続く諸兄に実態を知って欲しいからだ。 三途の川まで続くその風景は広大で厳しい。旅支度をしっかりして乗り切ろう。
  1. 先ず小生に係る事実関係を書き出そう。
    1. 小生の誕生日は4月10日。今年75歳になった。
    2. 従って、それまでは国民健康保険(以下「国保」という。)の被保険者だったが、誕生日以降は、「後期高齢者医療制度」の被保険者になった。
    3. 家内は、数年前から国保の(一本立ちした)被保険者であったが、小生の後期高齢者医療制度への移行後も何ら変更無く継続される。
    4. 所帯主(私のこと)に本人分と配偶者(家内のこと)の分の保険料の納付義務がある。
    5. 従前は7月半ばころ市役所からは小生宛に家内の国保の保険料と小生分の国保の保険料を合算した額で1通の納税通知書が送られてきていたが、 小生の後期高齢者医療制度への移行により、小生(世帯主)宛2通の通知書が送られてくる事となった(7月14日受信済)。
      1. 1通は、小生の「後期高齢者医療保険料通知書」。
      2. もう1通は、家内の「国民健康保険税納税通知書」だ。
    6. 最大の関心事は通知書の中に書かれた保険税(料)だ。結果は、次の通りだった。
      1. 小生の後期高齢者医療保険料は前年の国保の保険料に比べ22.5%増加した。
      2. 家内の保険料は前年と同じ額である。
      3. aとbの保険料は、 (5)に記したとおり所帯主(納付義務を課されている)である私宛に(納税)通知されてきた。
    7. 市役所の担当者との電話でのやりとり
      1. 市役所の担当者の話では、後期高齢者医療保険料は国保の保険料に比べ低所得者は低くなり、 中間層は高くなり、高額所得者は低くなる(年間保険料限度額が55万円となったため)、とのこと。
      2. 市役所の担当者の話では、小生に関して適用可能な減免措置はあるかと訊いたが無いとのこと。
      3. 市役所の担当者に「収入は変わらないのに保険料だけが、22.5%も増えるのは問題だ」と抗議した。
  2. 保険料の試算
    地獄の恐怖の本質は保険料が大幅に増えることだが(小生の場合は22.5%増)、 中間所得層というレベルでの国保の保険料と後期高齢者医療保険の保険料を試算して比べてみよう。 なお、保険料の軽減措置の適用はなしと仮定した。
    所得割算定基礎額をSとすると(Sは、確定申告書BのH欄の金額から33万円を差引いた金額)、
    1. 国保保険料Hは、所得割率は5.9%、均等割額は被保険者一人当たり29900円だから、
      H=0.059*S+29900
    2. 後期高齢者医療保険料Kは、所得割率は8.19%、均等割額は被保険者一人当たり40100円だから、
      K=0.0819*S+40100
    3. 保険料増加分Zは、Sが変わらないとすると、
      Z=K−H=(0.0819*S+40100)−(0.059*S+29900)=0.0229*S+10200
    4. 対国保保険料増加率Rは、
      R=Z/H
    S(所得割算定基礎額)を6通り仮定した具体的な数値を下表に例示する。
    S(所得割算定基礎額)(円)H(国保の保険料)(円)K(後期高齢者医療保険料)(円)Z(保険料増加分)(円)R(対国保保険料増加率(%))
    1,500,000118,400162,95044,55037.62
    2,000,000147,900203,90056,00037.86
    2,500,000177,400244,85067,45038.02
    3,000,000206,900285,80078,90038.13
    3,500,000236,400326,75090,35038.21
    4,000,000265,900367,700101,80038.28
    ここに、
    Sは、所得割算定基礎額。即ち、確定申告書BのH欄の金額から33万円を差引いた金額を転記したもの
    H=S*0.059+29900     (註)*は掛け算の記号
    K=S*0.0819+40100     (註)*は掛け算の記号
    Z=K-H
    R=Z/H     (註)/は割り算の記号:この場合、ZをHで割ることを意味する。
     
  3. 総括
    この表のR(対国保保険料増加率)を見ると全て3割の後半代だ。それもS(所得割算定基礎額)が増えるほどR(対国保保険料増加率)は増えている。 中間層の中でも国保に比べより対所得逓増の保険料だということがわかる。
    前提条件は、S(所得割算定基礎額)が変わらないとしたこと。 でも、この前提条件は大概は満たしていると思う。何故なら、年金暮らしが多い世代だから。
    要するに、誕生日前まで加入していた国保の保険料より、誕生日後の後期高齢者医療保険料が3割の後半程度増えるということ。 これが、保険地獄の恐怖の本質だ。
    小生の場合は、22.5%で済んでるのは理由があって、それは、去年から家内が年金受給者になったことにより、小生の配偶者付加年金が無くなったため、 小生の去年の年金所得(所得税法上は雑所得)が減ったので、それをベースに算出される今年の保険料が昨年の保険料より低く出たために過ぎない。 即ち、S(所得割算定基礎額)が変わってしまったケースなのだ。
    兎に角、小生の試算を追試して欲しい。
    小生が間違っていることを願ってる。そして、明日から8月。つきが変わることも。
    なお、本報告は狭い範囲の所得割算定基礎額を想定したものであるので、 各人は自己の家族・収入等にあわせて市への問い合わせなど、検討・確認されるようお願いします。
     
  4. 総括2
    兎に角驚いたのは、後期高齢者医療制度に関して次の2つだ。
    1. 対国保保険料の増率の高さ
    2. 保険料計算のシンプルさ
    そしてもう一つの驚きは、
    1. このような高い増率で、シンプルな保険制度が、75歳の誕生日を迎え、後期高齢者医療保険料通知書を受け取るまで分らなかったことへの驚き
    2. 何故、それまでに十分説明がなされなかったのかの驚き
    この驚きから、役人は、政治家は、野党は、マスコミは、何をしていたのだろうとの疑問が湧いてくる。 国民にきちんと説明をして覚悟させなければならないのに、隠れてこそこそとやっていたのだろうと思わざるを得ない。 原子力村的な空気社会が見えてくる。空気社会は物事の本質より村民の意向を尊重する社会のことで民主主義の弊害の一つだ。 結果は、モラル・ハザードを招来し国家の衰亡につながるだろう。ローマ帝国衰亡のストーリーと同じだ。
     
     
    でも、私は失いたくない。希望のささやきを。 この曲は、聖歌の一つで、日本では緒園(おぞの)凉子(りょうし)により訳詩されている。 更に、お袋の世代では曲名を「夏の光」として女学校での音楽時間で教えられていたようだ。 何れにしろ文句なしのいい曲だ。希望が湧いてくる。
     
  5. 総括3
    物理学に面白い原理がある。
    それは、有名な「相対性原理」だ。
    駅で、隣に止まっている電車を見ていて、その電車が動き出したとき、 「自分の乗ってる電車が動き出した」と思ったら、動いていたのは向こうの電車だった…と言う経験がある方は、すぐにわかる事だ。 そして、この時速○○kmと言うのは、全て地面を基準にして測っている。 つまり、この地面その他を頭の中から全て取っ払ってしまえば、自分の速さを決める事は出来ない。 自分にわかるのは、相手の速さ、つまり相対速度だけ、と言うわけだ。
    結局、いかなる方法を用いても、自分が今現在どのように動いているのか、或いは止まっているのかは、知ることが出来ない、と言うわけなのだ。
    これが、ガリレオが打ちたて、後にアインシュタインが発展させた相対性原理、と言うものだ。
    保険料も相対的な量。そのものだけでは高いのか低いのか分らない。
    この相対性を巧みに使った値上げ作戦が後期高齢者医療保険料だ。 国民への説明上のポイントは比較しないこと。 比較すれば40%に垂なんとする増加率、これが問題にならないわけがない。 じゃによって、役人、政治家、野党、マスコミを巻き込んで暗黙の比較緘口令が布かれたと思われる。
    本当は、国民にきちんと説明して中央突破したかったのだろうが、国民側のレベルも問題だった。
    ・・・そんなとこだろう。
    この制度を指揮した指令官の話を聞いてみたい。厚労省辺りの役人だろうが、思ったより優秀だ。何故なら我々がやられてしまったのだから。
     
     
     
     
     
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    <コメント欄>   当欄は上記のメールをコメントとして掲示するものです。
    後期高齢者医療制度についての感想
    石井浩四郎
    俊雄様
    詳細なレポートを有難う、ご苦労様でした。
    貴兄のHPのリポートを読み以下の感想を持ちました。どうでしょうか。
    とりあえず送りますから、メールとして配布しても、HPに載せても、コメント欄に乗せてもらっても結構です。必要な人にメールしてもいいのですが・・・。適当に処理又はご指示ください。
    @後期高齢者保険制度については、東京都の「いきいキネット」に詳しく出ていました。
    A後期高齢者医療制度は、本来収入が少なく且つ医療費支出の多い75歳以上の人だけで強制的加入の保険制度を作ろうとしたものだけに、かなり無理があり、保険料負担が多くなるのは基本的に当たり前なのですね。勉強してみてやっとわかりました。
    B貴兄のBの保険料の試算、4表はS(所得割算定基礎額)が1、500、000円から始まっていますが、本来75歳以上の人で、Sが1、500、000円以上の人(年金収入としてはは2,700,000円)は全体的には非常に少ないのではないですか。ましてや、保険料が上限の55万に達するには(収入が年金収入だけと仮定すれば)年金額が7百万を超えないとなりません。こんな人が世の中にいますか。
    Cサラリーマンだった人は年金額で比較的恵まれていますから4表に該当しますが、国民年金は7万/月がmaxですからSは0に近くなり、Sは保険料はほとんど発生しない(この計算は正しいかな?)
    D年金以外の収入は、例のク、ロ、ヨン、制度が効いてきて捕捉されないから、保険料は発生しない?
    E市役所の担当者が言う7,aは回答としてはちょっとおかしいけど、全く間違いでもないのでしょうか。
    収入の平均値と病気の罹患率が
    @、55歳以下
    A、55〜74歳B
    B、75歳以上
    では相当違いますから、制度の作り方が難しい筈です。
    F気持ちとしては、国保(保険料ではなく保険税)と比較したくなりますが、制度しては全く異なるものを作っていますね。我々はどう怒ればいいのでしょう。
    老境に差し掛かってからどうやってやっていけますかね。本当に医療保険地獄ですね。
    (2013/08/03 20:32)
     
     
    「後期高齢者医療制度についての感想」への返信
    石井俊雄
    昨日は、孫の面倒見で時間をとられ、更に、迎えに来た嫁と夜遅くまで話をしたりしたので、回答が遅くなりました。
    @はその通りです。小生も見ました。
    A若者が減り、年寄りが増えていることは知っていましたので、医療給付費が増加しているはずだとは思っていました。
    だから、ある程度の負担増は覚悟していましたが、「これほどとは思わなかった。」というところです。
    従って、もう少し分るようにPRできなかったのかと思った次第です。
    B小生は、4表を「中間層」について試算してみたものです。高額所得者は極く希だとのことでした(市役所)。
    C小生は、4表を「中間層」について試算してみたものです。何故なら、軽減措置が入り込んでくると複雑になるからです。
    D確定申告しない場合も、市町村は年金とか給与については事業者に報告することを義務付けているので、 それをベースに計算して通知してくるのではないのかな。中々天網恢恢疎にして漏らさずのようです。
    E小生も年金収入が200万円の場合について、改めて試算してみましたが、結果は国保より安くなるとでました。
    ただ、この場合は、軽減措置が入ってくるので、結果の正確度は低いです。
    F我々も医療費の軽減に努めるようにしましょう。ジェネリック医薬品を使うとか、軽い病気なら売薬か残りの薬を飲むとかして。
    シルバーの仲間の話では、「私は1割負担だから直ぐ病院に行くのよ」というようなのをよく耳にしますが、そんなのは止めるとかして。
    また、食い物に注意したり、運動したり、体操したり、健康寿命を生きるように努力して。
    ま、優等生的な話ですが、それしかないのではないだろうか。
    でも、「安楽死法」という手もあるかも知れません。
    現代版姨捨だ。
    でも、そうはならないでしょう。科学技術が発達して、エネルギー問題が解決すれば、解決策は見えてくるだろうから。
    少なくとも他律的姨捨はそうでしょう。でも、自律的な姨捨は個人の選択肢としてあってもいいと思う。
    (2013/08/04 11:44)
     
     
    後期高齢者医療制度についての感想
    石井浩四郎
    確かにPR不足ですよね。 @貴兄の表は中間層についての試算とのことですが、収入が捕捉され易い年金と給与に限れば中間層ではなく高額層ではないでしょうか。 このクラスは人数は少ないと思います。
    A年金が200万の場合は、Sが80万になりますから保険料は、
    80万×8.91%+40100円=111,380円(東京都の場合)になりますね。
    国保税は78,000です(調布市)の場合ですから、やはり大幅増ですね。
    Bなにせ思い込みだけでしたから、我々の勉強不足と施政者のPR不足ですね。皆さん方の意見を聞いてみたいですね。 佐高八期会の連中は今年中に75歳になるが多いから皆気がつかず、まだノンキなのでしょうか。
    (2013/08/04 12:23)
     
     
    「後期高齢者医療制度についての感想」への返信
    石井俊雄
    A年金が200万の場合は、軽減措置が入ってきて次のようになります。
    この場合は、丁度、「東京都後期高齢者医療広域連合」が発行する「後期高齢者医療制度のしくみ」や同団体が発行する「東京いきいき通信」にも載っていまして、次のように書いてあります。
    単身世帯で本人の収入が年金200万円のみの場合
    ・均等割額
    年金収入200万円ー年金控除額120万円ー高齢者特別控除額15万円=65万円
    これを「均等割額の軽減」なる表に当てはめると、2割軽減に該当するので、
    均等割額は、40100円*0.8=32080円
    になる。
    ・所得割額
    年金収入200万円ー年金控除額120万円ー基礎控除額33万円=47万円
    これを「所得割額の軽減」なる表に当てはめると、5割軽減に該当するので、
    所得割額は、47万円*0.0819*0.5=19246円
    ・1年間の保険料は、32040円+19246円=51300円  (100円未満切捨て)
    となります。

    以上のように、年金額が200万円を少し超す辺りから軽減措置が入り込んでくるので、かなり属人的な計算が必要です。
    従って、このような場合は夫々が試算した方がいいでしょう。

    その軽減措置に触れないで済むように中間層を設定し試算したので、本来的な意味の中間層とはズレがあると思いますが、
    例が分れば自分の条件にあった試算も出来やすいのではと思っています。
    (2013/08/04 14:54)