ブラックホール情報パラドックス

2022/11/15 石井ト
 
4年前亡くなられたイギリスのホーキング博士の関連で、ブラックホール情報パラドックスの話をよく聴くが、この度、ネットでその分り易い解説動画を見付けた。 制作者 のもと物理愛氏の「ブラックホール情報パラドックス」という解説動画だ。
普通、量子レベルの事は、あまりにも極小の世界のことだから起こっている物理事象が実感できないことが多いので、 説明文も抽象的になり勝で、ピンとこないことが多かったが、本編ではミクロな世界での出来事をイラストで説明するなど具体的な説明がなされているので分り易く、 ブラックホールのことが理解しやすいと思えた。
それで、本HPにそのサイトへリンクを張るとともに、そのアブストラクト(簡約文)を掲載することにした。 本編は、ここをクリックのこと
興味のある方、良かったらご覧ください。 なお、簡略化のため以下「ブラックホール」を「BH」と記した。
  1. BH情報パラドックス:熱力学の第2法則の破綻
    熱力学第2法則とは、エントロピー(乱雑さの程度を表す尺度)は減少しないで放っておいたらどんどん増える、即ち、乱雑になるという定理。 この法則は基本原理であり、これが侵されることは、いままでの物理法則全てが破綻することを意味して受け入れがたい結果となる。
    ところが、BHではこの基本原理が守られてないかもしれないとして熱力学第2法則の破綻パラドックスが提起された。 以下、その解決に至る過程を追ってみた。
    1. BH無毛定理:BHには質量、電荷、角運動量の3本の毛(毛とは特徴のこと)しかないという定理
      BHとは、巨大な重力のため光すら脱出できない天体で、温度があるなら熱輻射を行っているはずだがそこからは何も出てこない絶対零度の黒体だ。
      そこで次の疑問が生じる。BHに落ちた物質のエントロピーはどうなるのか?
      エントロピーとは乱雑さの尺度をいうもので、その値は熱を温度で割った値で示される。 = T BHは、BH無毛定理により、BHには質量、電荷、角運動量の3本の毛(毛とは特徴のこと)しかなく、エントロピーは存在しないことになっている。 従って、BHに堕ちた場合、その物体のエントロピー分、全体としてエントロピーが減少する事態となり、熱力学第2法則違反となる。 これがBHの熱力学第2法則破綻パラドックスである。
    2. ホーキングのBH面積定理仮説の登場
      更にその後、ホーキングはBH面積定理
      BHの表面積は減少しない。ホーキングの説明は事象の地平線は静止した光で覆われているから表面積は減少しないとした定理
      を提唱した。
      ここで余談ながら、静止した光という表現が面白い。 光が一箇所の留まるということなら、イメージが湧かない。それこそ、「言葉としては正しいが何言ってるの?」となる。 「この静止した光の実体は何?」が知りたい。
    3. ベッケンシュタインの仮説の登場
      ホーキングはのBH面積定理を受け、ベッケンシュタインは次の仮説を提唱した。
      1. BHの表面積はエントロピーを意味する
      2. BHの表面の重力は温度を意味する
    4. ホーキングは、ホーキング放射を提唱
      ホーキングは、従前の「BHは巨大な重力のため光すら脱出できない天体で、何も出てこない絶対零度の黒体だ」との主張を改め、 次のホーキング放射の存在を提唱した。
      1. BHは温度もあって熱的な放射をもつ。
      2. BHの温度: T = hc 3 16 π 2 GMk    (T:BHの温度)
    5. ベッケンシュタイン・ホーキングの公式
      ホーキング放射を受け、ベッケンシュタインとホーキングは、ベッケンシュタイン・ホーキングの公式を提唱した。
      1. ベッケンシュタイン・ホーキングの公式 S BH = kA 4 l 2    (A:BHの表面積、S:エントロピー)
      2. BHの表面積はエントロピーを意味する
      3. BHの表面の重力は温度を意味する
      この結果、表面積は面積定理により減少しないのでエントロピーも減少しないとなり、熱力学の第二法則を満たしていることがわかった。
    6. BHパラドックスの解消
      表面積は面積定理により減少しないのでエントロピーも減少しないとなり、熱力学の第二法則を満たしていることがわかった。
  2. BH情報パラドックス:因果律の破綻
    ホーキングの新しい問い:「情報はどこへ行ったのか」が生じた。なお、情報とは原子の並び方などのデータ(情報)のことを云う。
    ホーキング放射は黒体放射なので温度の情報しか持っていない。温度とは質量のことだからホーキング放射は質量の情報しかもっていないとなり、 それ以外の情報が失われることになる。 となると情報が失われた分、元通りに再生できないとなり因果律が破られることになり大問題。 これをBH情報パラドックスと呼ぶ。一難去ってまた一難だ。
    因果律とは、現在の状態が分かっていれば、過去も未来の状態も導く出せるという原理のことを云うからだ。
    1. BH情報パラドックス解決へのアプローチ法
      1. 要件1
        BHに落ちていく情報が失われないためには、BHに情報が保存されなければならない。
      2. 要件2
        更に、その情報を書き込むためには、状態の数を収容できるメモリ容量が必要になる。
      3. 状態の数
        ベッケンシュタイン・ホーキングの公式を使ってエントロピーの値か導き出せるが、そのエントロピーの値がら、 統計力学から導かれたボルツマン公式    S = k log W   (W:状態の数、S:エントロピー) を使って、そのエントロピーに見合った状態の数が算出できる。
      4. 状態の数試算
        10の31乗kgの重さのあるBHの状態の数を試算したら、10の10の78乗個の数が算出された。
      5. 超ひも理論
        従って、BHにそれだけの状態の数を収容するメモリがあるかということが問題になる。そこでそのメモリとして登場するのが超ひも理論だ。
    2. 超ひも理論
      超ひも理論は、通常粒子として捉えられる素粒子を一次元のひもとして捉える考え方をいうが、それによると、
      特殊な膜でBHの表面が覆われているというのがひも理論的にみたBHの姿であり、張り付いたひもの自由度が状態の数になる。
      量子力学の規則を当てはめてその状態の数を数えてみたら、10の10の78乗という状態の数が算出され、 BHには情報を書き込む十分な容量があることが分かった。
    3. BH情報パラドックスの解消
      以上から、BHに落ちた情報は失われない。即ち、因果律は保持されるとなった。
  3. パラドックスの解消
    以上から、
    1. BHはエントロピーを持つ
    2. BHに落ちた情報は失われない
    となる。即ち、BHでも、熱力学第2法則と因果律は保持されることが分かった。良かったね!
  4. トピック
    以上で情報パラドックスは解消されたが、超ひも理論は未だ仮説の段階であり証明されていない。 従ってまだまだ研究は続くだろう。BHにはその他にもいろいろなトピックがある。その中からいくつかあげれば次のものがある。
    1. 重力のホログラフィー原理
      1. BHは、重力を含む三次元の世界に存在するのだから、三次元体積に比例したエントロピーを持っているのではないかと考えたいのだけど、何故かBHは表面だけにその情報を持っているとなっている。エントロピーが表面積に比例するという不思議である。ここから、重力のホログラフィー原理と云うのが発展していく。
      2. これは本当に不思議なのだが、重力を含む三次元の世界が、重力を含まない二次元の平面の世界と同じようにして書けるということを言っている。
      3. 私たちは、三次元の世界に住んで生活しているが、これが実は、宇宙の果てにある二次元のスクリーンに示された情報が、 この世界に投影された幻に過ぎないかも知れないと言っている。
      4. これらのことから、空間とか次元とかが、人間の経験的な直観を超えて、もっと奥深い本質のところが見えてきている。
    2. 相補性
      相補性とは、相反するものが補い合って一つの世界を形作っていること。 例えば、光は粒子か波かのどちらでもあることが挙げられる。 人間は粒子状態の光と波状態の光を同時にみることはできない。ミクロの世界とマクロの世界を分かつ事象の地平線があるかもだね。
    3. サスキンド:BHの相補性
      BHの中に在るものと外にあるものを同時にみることはできない。 何故なら、事象の地平線があるから。これがBHの相補性だ。
    4. 時空と観測者
      時空が存在するか否かという概念が観測者に大きく依存することを意味している。
  5. 所感
    物理の世界はミステリアスで面白い。 特に感じるのは、「重力のホログラフィー原理」、「相補性」の二つだ。これって、不思議過ぎて見当もつかない。 若しかしたら、時空の4次元の外もう数次元、我々には見えない次元があるのかも知れない。 そうなれば、物理の世界は、基本原理と仮説とパラドックスと実証の取っ組み合いで発展してきたのに、その中の「実証」が揺らぐ。 そうなれば、数学と量子コンピューターのシミュレーションが証明の手段として一般化するかも知れない。
    小生、今後もビジュアル系のネット解説サイトをワッチ(注視)して行きたい。時間はたっぷりあるし・・・。
 
 
 

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