83歳爺の智・情・意地

石井ト
ご機嫌如何?
さて、「智に働けば角が立つ情に棹させば流される意地を通せば窮屈だとかくに、人の世は住みにくい」について考えよう。
これは、ご存じ夏目漱石が「草枕」の中に記した人の世の住みにくさを表した一文である。
『草枕』冒頭に出てくる名句。人づきあいの難しさを説いたもの。世間の人とつきあうときには、頭のいいところが見えすぎると嫌われる。あまりにも情が深いとそれに流されてしまう。 また自分の意見を強く押し出すと、衝突することも多く世間を狭くする。 人づきあいというのは、智と情と意地のバランスを上手にとらなければならず、なかなか困難なことだ、というのである。(この段、「JLogos」より抜粋)
夏目漱石が『草枕』を書いたのは1906年だから、彼の39歳の作品だ。 39歳で、この名文句を書けるところに、彼の並々ならぬ才能を感じる。 小生など、83歳にしてやっと、その言わんとするところが理解できたのだから、彼我の間にある能力差に、今更のように驚くのである。
この世には多くの人がいて、皆夫々が、夫々の考えで生活している。その考えは、十人十色。大きく違う場合もあり、ほぼ同じという場合もあるが、突き詰めれば、細部で微妙な違いがあるのが普通である。
そんな中、83歳爺は生きている。だから、「智」「情」「意地」とその決定の結果である行動の関係を考えてみた。 この関係が解れば、自ずと、自他の生き方が解るだろうと期待したものだ。
人の行動と、「智」「情」「意地」の関係、即ち、行動方程式は、次のように数式化できる。
            行動  = ƒ(智、情、意地)
ここで、ƒは関数記号、「智」は知性への敬意、「情」は他者への敬意、「意地」は自己への敬意とする。
この行動方程式を、実際の世界に適用してみよう。
  1. 江戸っ子の場合
    江戸っ子は、狭い下町に密集して住んできたので、人情家が多い。
          情 > 智・意地
    であるから、行動は「情」の支配するところとなる。
          行動  = ƒ(情)
    即ち、行動は人情の影響が大きい関数となるから、人情によって行動は決定され、人の都合(人情)が優先され、例えば約束などは紙くず同然の扱いを受ける。 例えば、『婦系図』(おんなけいず)。ここでは、「固い契りを義理ゆえに、水に流すも江戸育ち・・・」の世界が展開される。 言うまでも無いことだが、「契り」とは「約束」ということで、多分、前者は大和言葉。後者は明治文明開化期の造語。
  2. 九州出身の田舎者の場合
    九州出身の田舎者は、多感な幼少期を実家という概ね広い家に住んで育っているので、人と人の間の距離が長く、比較的孤独で思索的な生活の結果として知性派が多い。
          意地・情 < 智
    であるから、行動は「智」の支配するところとなる。
          行動  = ƒ(智)
    即ち、行動は智の影響が大きい関数となるから、智(知性のこと)によって行動は決定され、知性派が重視する約束は人情より優先される。
  3. 播州赤穂浪士の場合
    播州赤穂浪士は、お武家なので、武家の誉れという観念への執着、即ち意地が強かった。
          意地 > 智・情
    であるから、行動は「意地」の支配するところとなる。
          行動  = ƒ(意地)
    即ち、行動は意地の影響が大きい関数となるから、意地によって行動は決定され、約束や人情は無視される。自己への忠誠ということだ。
  4. 善男善女の場合
    世の中には善男善女という宗教上の信者がいる。この信者の場合の行動は、神への信心が行動を決める。だが、神は自分の信じる心のことだから、神への敬意は自己への敬意、 即ち、意地が決めるとなる。
          意地 > 智・情
    であるから、行動は「意地」の支配するところとなる。
          行動  = ƒ(意地)
    即ち、信者の行動は意地が決める関数となるから、意地によって行動は決定され、約束や人情は無視される。
以上の考察から、小生たる83歳の爺の行動は、生まれ育った2の田舎者の心構えを生きる、となる。何故なら、三つ子の魂百までも、と言うからだ。従って、
      行動  = ƒ(智)
ということだ。
このように、人間の行動を決める仕方を俯瞰すると、いろんな人の立場が分かると思う。だが理解し合うことはないだろうか。そんな気がする。水と油のようなものだから。
式で書けば、
      ƒ(智) ≠ ƒ(情)
だが急いで、知性派が大勢を占める国柄になるべきだと思う。
智に働けば角が立つと云うが、流されるよりはいい。流されるとは人任せにするということだ。先の戦争は、誰もが自ら考えず、 何とかなるだろうという情に棹差して起ったものだ。そのことをしっかり理解した上で、知性派を育てなければならない。角が立っても・・・だ。
 
 
 
 
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