晩酌パブの『いろは唄』

山口 孝一郎

リベンジの『り』・理間の『り』・理解の『り』


 ある日一平が店に立寄ると、竹ちゃんと言う客が 数年ぶりに立寄っていた。玄さんと話しの最中だった。チイママ(引退した初代ママの娘)は竹ちゃんと同じ意見だったのだが。一平が暖簾を潜って店に入ってくると、 「あ〜ら一平ちゃん待ってました。良いところに来てくれたよ」とチイママ。
「アレッ! 竹ちゃんじゃない? 暫くでした。お元気そうで…。何年ぶりだろう? 中国の会社は巧く行ってんの?」
一平はそう言いながら竹ちゃんの隣の止まり木に腰をかけた。
チイママ(以降チイママ=ママ)はカウンターの中。玄さんは竹ちゃんの隣の席を一つ空けた止まり木に停まっていた。

「一平ちゃん、聞いてよ。竹ちゃんは今度 会社で降格になるんだって。
久しぶりに日本に帰って来たのにサ。世の中って厳しいわね! 竹ちゃんはうちの店の出世頭だったのにサ」
「何で又?」
「中国で大赤字出したんだって」とママ
「竹ちゃん 竹ちゃんはお人好しだから、騙されちゃったのかい?」と、一平。
「チャウ 真似されたんだって」とママ。
「真似された? ふ〜ん? ナラいいじゃないか。良い物はスグまねされるよ」
「……?」ママは初手から一平は自分と同じ意見だと思い込んでいるから、
一平のセリフが理解出来ない様子だ。
竹ちゃんは黙ったままだ。

「俺等みたいな不器用な奴はさあ、『真似したい!』って思ってもなかなか真似出来ないよ。まねをして貰うって事は名誉な事だよな」と、 ろくに話しも理解しないないで トンチンカンな事を言うと、一平は出されたビールを一気に飲み干した。そして
「おかわり」
「一平ちゃん 他人事だと思って、いい加減な軽口叩かないで!」と、ママ。
「軽口なんか叩いちゃいないよ! 真似をした奴は これは好いと思ったから真似をしたんだろう? ウンなら結構な話しじゃないの? それが如何して『降格』に繋がるのよ?」
「そうヨ 竹ちゃんは良い物を造ったんだわ。だから真似されたのよ ねェ〜 竹ちゃん」と、ママは百パーセント竹ちゃんの味方だ。
「……。」竹チャンは黙っている。
「なら やっぱりこれは結構な話しじゃないの」と、一平。
「ところが、これが不結構なのヨ」
「如何して? だよママ」
「降格だからヨ」
「だから 『如何して?』って訊いているんだよ!」
「だから『降格』だからって言ってんでしょ。『降格』は『不結構』でしょう? モウ! 一平ちゃんいい加減にして。まだ一杯しか飲まないウチから。いきなりトンチンカン言うんじゃあないよ!
 一平ちゃん、あんた最近 酒癖悪いよ! これはホントに真面目な話しなんだから。言葉尻を捕まえてフザケないでよ! 折角一平ちゃんに最初からの説明をしてあげようと思ってたのに 何を言ってたのか分からなく成っちゃったじゃないのヨ!」
と、ママにもトンチンカンが伝染したのか 自分勝手な事を言い出した。
(親譲りか?)
暫くして 玄さんが顔を出したばかりの一平に 竹ちゃんの『今回の事の次第』を説明し始めた。
そもそも、竹ちゃんはカメラの精巧なレンズを造る技術者だが、十数年程前からメガネのレンズの製造部門に配属されていた。しかも安いめがねのレンズを開発する研究室に回されていて、科学者のプライドを傷つけられて スッカリ落ち込んでしまっていた。
 与えられた研究にも消極的になり、何の成果も出せないまま、何時解雇されるかと怯えて自暴自棄になってしまっていた時もあった事。
 その頃この店で先代のママと出会ったのだが、 毎日のようにこの店に顔を出し、会社の不満や、上役の技量の低さや、同僚の生地(いくじ)の無さをジュクジュクと嘆いては酔い潰れるまで呑んでいた事。
 男勝り(おとこまさり)の気性を持つ先代のママには とても耐え難い連夜の愚痴のお相手だったのだが、『これも商売!』とばかりに、我慢をして毎晩竹チャンの相手をしていた事。
 だが、ある夜 遂にママの気性が爆発した事。
『ガッツも目標もないクセに、偉そうに『学者様』だなんて格好付けないでヨ! アンタなんかに呑まれる『酒』が可哀相だわ! 『アイツが悪い』?『コイツが能ナシだ!』って 周りの人達を見下してさ! 『学者様』がそんなに偉いなら アンタなんか 白衣を着て研究室で一生ボヤイてればいいんだよ!』と、一喝されて 竹ちゃんはハッと自分の心の小ささと、醜さに気が付いて 死んでしまいたい程 恥ずかしいと思った事。
 以来、意識して増冗漫(ぞうじょうまん)の自分を抑え込み、初心に帰って謙虚に 独りで仕事に向き合うと心に誓った事。
 やがて命題の安いレンズに本気で挑戦して、研磨に膨大な時間と労力のかかるガラスのレンズを離れて 射出成形による樹脂レンズの開発を始めた事。

 樹脂レンズの製作は 当時 理屈では完成していたのだが、
『理屈を形にする』と言う地道な作業はご多分にもれず、失敗作の連続だった事。一年以上も絶望と失敗の繰り返しの中で上司からも、仲間からも『月給ドロボウ』と囁かれ 馬鹿にされる事がだんだん多くなった事。
会社では 理解者を失い仕方なく 独りでこっそりと夜間に 出入りの零細企業の工場を借りて思考錯誤をくりかえし始めた事。
 竹ちゃんが本気に成ってメガネに立ち向かってみると、目の前にはトンでもなく巨大なメガネの市場(しじょう)が見えて来た事。(今まで 市場のことを考えた事はなかった)
 地球の人口は増加の一途をたどり 早晩百億人に迫ると言う将来の情勢を考えれば、(メガネは 人間の年齢と共に失われていく視力を補う道具だから。)そこには無限とも言える巨大市場が見えてきた事。
 材料の探索・加工は勿論、射出の圧力、金型の精度、冷却時の歪みの解析、屈折データの分析、等々気が遠く成りそうな微妙な改善と試作とその記録、そして試作の失敗と挫折感。先の見えない単独作業は心細く 連日の睡眠不足は五年に渡って続いた事。
 過酷な開発を支えたエネルギーは、成功の向こうに見える 人類六十億人からの注文に悲鳴を上げる生産体制の『ど真ん中で自分が働いている』と言う夢だけが 絶対に『アキラメナイ!』と言う 自分の力に成った事。
 この夢が数々の嘲笑を払いのけ、身を削って完成に邁進させる力になり、
五年間の苦闘の末ついにガラスの十分の一と言う格安の樹脂レンズを産み出した事を玄さんは一平に説明した。
 生産ラインの完成とともに、竹ちゃんは研究室の室長となり、劇的なシェアの拡大に伴って瞬く間に開発部長にまで登りつめた事。
 会社は主力製品をカメラや顕微鏡からメガネに移すと、収益は格段に上がり、安い労働力を求めて中国に進出して一気に三倍の増産を目指し、会社はそのトップに竹ちゃんを据えた事。
 そして三年間、業績は毎年 年次計画をはるかに上回って発展し 次第に品質も向上して生産体制の主力を中国に移行したこと。
 中国に進出してからも 現地の企業を買収し、毎年 年次の事業計画は二ヶ月を残して達成、どこから見ても何の懸念も無く順風万帆にみえていたと言う。

 だが、五年目に入って業績は一気に落ち込んでしまった。あわてて原因を調べると 仰天の事態が秘密裏に進行していた事が判明した。
 その事態は突然 格安のメガネを造る巨大な中国企業と言うライバル企業となって姿を現したのだった。
 想えば、技術の流出は竹ちゃんが中国に進出したその時から始まり三年間に渡って、樹脂レンズの技術は勿論 生産ラインのノウハウに至るまですっかり盗み出され、しかも改良されて国家の資金援助を得た中国独自の企業として四年目に堂々と生産を開始していたのだった。
 慌てて本格的に調査をしてみると その製品は出来栄えも良く、価格も日本製品の工場出荷価格よりもはるかに安い値段(半値以下)で店頭で売り出されていたのだった。  
 同じ物が 出荷価格の半値以下で店頭に並べられれば 当然の事ながら 勝ち目は何処にもナイ。
「と、言う訳でね。竹ちゃんは 中国進出を諦め、全てを清算して帰って来たと言う訳なんだよ。それにしても 竹ちゃんは凄い事を経験した男だよ」
と、玄さんが解説した。
「ねッ!一平ちゃんトンデモナイ話しでしょ」と、ママは力をいれた。

「そんな事があって良いのかよ! なァ 玄さん。そりゃあ ドロボウだぜ。
竹ちゃんの今までの苦労は 一体ドウ成るんだよ?」
「さっきから言ってるけど、残念だけど、多分如何にもならないよ」と玄さん。
「竹ちゃん 特許とか取っていたんだろう。そんな馬鹿な話しは無いよネ。
 玄さんも玄さんだよ。何だか知らないけど、物知り顔をしてよう。
『竹ちゃんは凄い事を経験した男だ』って言うんなら『如何にもならないよ』はないだろう!」と、一平は玄さんに向かっても 怒り出した。

「一平ちゃんそれは少し違うよ」と、今度は竹ちゃんが遮った。
「今思えば 幼稚だったと言うかあまりにも準備不足だったと思う。こんな理不尽はないとばかりに、訴訟の準備もしたし、直接談判もしたけど、多勢に無勢と言うか 相手は国の支援を受けた会社だから、民間企業の力では『月とスッポン』とても太刀打ちはできなかったよ。
 圧倒的な低価格にジリジリと寄り切られ、『技術だけを吸い取られて』ついに東シナ海に追い落とされたと言う感じだよね」と、
竹チャンは以外にサバサバした様子だ。

「でもよう、中国はナンでもカンでも真似しやがってよう!世界のブランド品でも商標でも突然 勝手に登録したりしてよう。 
 本家本元が自分の商標が中国では使えなくなったりしていると言うじゃないか! とんでもない民族だぜ。」一平の不満は納まらない。

「商標などが受付られないとなると、今度はよう『シャネル』を『シャネレ』などと一文字だけ変えて登録するんだからよう。しかも色も形も全く同じ字体を使いヤガッテよう。受け付ける方も受け付ける方だけど、『良心』なんて言うものは 欠片(かけら)も無いのかね。全く悪辣極まりない連中だぜ!」
 一平は益々怒り 独りで興奮し始めた。

「ホントだよ!一平ちゃんの言う通りだよ。みんなでヤッツケちゃえば 良いのよ。玄さんもそう思うでしょう!」と、ママ。
「…?…。思わないね」と、暫くして玄さん。玄さんに一歩も引く様子はない。
「玄さん アンタ日本人でしょう。悔しくないの!」ママさんも怒りだした。
「そりゃあ 俺だって、悔しいし、腹立たしいよ。それに俺も正真正銘の日本人だヨ。でもネ、ヤッツケちゃあ やっぱりイケナイと思うんだよね」
「なによ 玄さん。悔しいんなら、もったいぶらずに男らしく『そうだ!』って大声で言えば良いじゃないのヨ」
「ママそれがダメなんだよナア……。『ヤッツケちゃえ』ば、相手に恨みが残るよ。それにヤッツケきれないかも知れないしさ。現に竹ちゃんは『ヤッツケ』きれないで帰って来てるじゃあないか。
 それに 日本人だって、明治維新の頃から西欧文明を追い掛けて百年以上もの間 模倣と改良を繰り返して来た国なんだよ。
そして、それは未だ(いまだ)にね…。最近は時々反対に真似をされることもあるけどさ。
 特に戦争の道具はね。武器を輸入しては分解して同じ物を造ったり、改造したりして戦地に届けたんじゃないの?。軍艦や飛行機、特に脅威の的になった回転するプロペラの間から銃弾を発射して 命中率を格段に上げた『零式戦闘機』など、元はと言えば欧米の飛行技術なんだよね。その技術をチャッカリ使って自分達の命を狙って来るんだから、欧米人にとって 日本人の憎たらしさは竹ちゃんのメガネの比じゃあなかったと思うよ」

「ジャあ 何かい。順繰りの事だから オイラには責める資格は無いってか?」
 今度は一平が玄さんに噛み付いた。
「そうじゃあ無いよ。本当に解決したいんなら、お互いに仲良くしなければならないと 言ってるんだよ」
 玄さんはあくまで冷静だが一平は治まらない。

「冗談じゃないよ。玄さん 寝ぼけちゃいけないよ。オイラは仏様じゃないんだよ。抓られたら痛いんだよ。右のホッペタを殴られて、気が済むまで殴って下さいと 左のホッペタを差し出すほど上等な人間じゃないよ。
 オイラは馬鹿で貧乏だけど、『腑抜け(ふぬけ)』じゃあないんだよ。少しばかりの説教をくらって『なるほど左様でございました』・『今後気をつけますから…。』とたちまち ドロボウに頭を下げるほどヤワな生き方は しちゃあいないんだよ」
一平は今にも 玄さんに 又もや『喧嘩布告』の様相だ。
 
「一平ちゃん、一平ちゃんの気持ちは俺も良く分かるよ。いや俺も全く同じ気持ちだよ、でもね…」
「デモもクソも有るもんか!」
一平はますます怒りだした。
「デモね。一平ちゃん、やっぱりそれでは何も解決しないんだよ。だから、
とりあえずその気持ちを抑えて まず仲良くなる事を考えなければならないんだよ。オイラは大人(おとな)にならなければいけないんだよ!」

「俺はヤだね。なかよくだって? マッピラ御免だね!」

「一平ちゃん 中国は早晩日本を抜いて、国民総生産は世界弟二位の経済大国になるんだよ。これは、紛れもない現実の趨勢なんだよ。だから、なんとか仲良く付き合わなきゃあ ならないんだよ」
「玄さん 何て言うナサケナイ事を言ってるんだよ! あんたヨウ、自分が今 何を言っているのか分かってのか! 『早晩日本を追い抜く大国だから 今のうちから仲良くしとけ』だってか? 玄さんアンタは今、そう言っているんだよ! これは 聞いて『ビックリ』だよ!
 全く玄さんらしくもないよ。 歳をとって弱気にナッチマッタのかよう!」
一平の語調は荒く成り、顔付も鋭く変わってきている。
 
「オイラは泥棒なんかのご機嫌取りなど 死んでも出来ないね。まして今に大国になるから なんてよう! そんな負け犬がシッポをケツの間に挟み込む様なマネは出来ないし、思い付きもしないよ。
 そんなことをしたら、この『紀村一平』ご先祖様にも、子供や孫達にも顔向けなんか 出来なくなっちまうよ!」
 今にも掴みかからんばかりの口調で息巻く一平を前にして、玄さんは全てを見とうしているかの様に あくまでも冷静だ。

「一平ちゃん チョットだけ 落ち着いてくれよ。チョットだけでいいよ。  中国人を一派一絡げ(いっぱひとからげ)にして、盗人呼ばわりはいけないよ。
オイラは今 今回の竹ちゃんの事をどう励ませば良いのか、一緒に考えているんだろう? 色んな人の考えやアドバイスを聞いて擦り合わせないと、問題点も見つからないし、いい解決策も、将来の展望も見えてこないんだよ。

 オイラの考えなど発表しても、どうせ大した役には立たないと思うけどさ。それでも この飲み屋に自分を応援している仲間がいると、思うだけで何時かキット竹ちゃんの励みに成ると思うよ。
 だけど、多分竹ちゃんは、今回は敗軍の将と成って帰って来たんだが、顔を見る限りすでに何かリベンジの策を持っている様な顔付きに見えるんだよね。」
 
「竹ちゃん そうなのかい」一平は竹ちゃんの顔を覗き込んでいる。
「一平ちゃん 俺は竹ちゃんの顔を見てそう想ったんだよ。良く見れば分かるだろうけど、竹ちゃんの目の奥には何か余裕さえ伺えるよ。
 竹ちゃんの顔を良く見たらいいよ。竹ちゃんの表情には、打ち拉がれて途方に暮れている気配なんか全くないよ。
 むしろ 竹チャンはこれからの自分の命をかけでリベンジに挑戦しようと思ってる様に見えるよ。
 だから会社の中での役職なんかどうでも良いんだよ。たとえ今、会社を解雇されたってそんな事で 竹チャンのリベンジの決意は怯まないと思うよ。
 まして俺には 会社での役職の上下など そんなチッポケな事なんか 今の竹ちゃんの眼中には微塵もないと思うんだけどね。
竹ちゃんの腹の中には『ドン底時代の凄まじい決意』があるんだよ。竹ちゃんが自分の人生をかけると決めた大仕事だもの 俺には竹ちゃんは自分独りになっても、コテンパンに叩かれても 死ぬまで頑張ってしまう様に見えるがね!」
 
竹ちゃんが声をあげた。
「玄さんは嬉しい事言ってくれるよ。俺は本当にうれしいよ。ヤッパリ今日ここに顔出して 皆と会えてよかったよ」

「竹ちゃん ヤッパリここは良いお店でしょう。おおママがよく言ってたよ。
ここは良いお客さんの『溜まり場』だってサ」
 チイママは感激して少し涙ぐんでいる様にみえた。
「そおだよ、その通りだよ。客筋はいいし、ここは本当にいい店だよ。チイママは まだし少しばかり、修行が足りないけどネ」 
「一平ちゃん! お客だから何を言っても良いって思ってたら大間違いだよ!
 バカばっかり言ってんじゃナイよ! どさくさに紛れてさ! 夜道は暗い所もあるからネ。」と、ママは半分笑っている。
「ゴメンなさい。ついホントの事言っちまったよ」と一平は頭を掻いた。

「ところで一平ちゃんよゥ、さっきの話の続きだけどさ、
『どちらが正しかったか』とか『どちらが野蛮だったか』と言う事は後世の人々が冷静に判断すればハッキリする事だからさあ。
 竹ちゃんがもう一段優れた商品を開発できたとして、その商品を中国でうまく流通させるためには、民族同士の『憎しみや啀み合いや偏見』は大きな障害になると思わないかい。
勿論 今度こそは絶対に真似をされない様に万全の対策は必要だろうけどさ…」
「ヤッパリ 玄さん。いい事言うジャン」とママ。
 
「ママに褒められたから、もう一言だけ 言わせて貰いたいんだけどサ
最近確かな筋から聞いた話なんだけど いま日本で消費している物の原料は殆どが中国から輸入されているらしいよ。 
 日本が世界に誇る伝統工芸品の『漆塗り』の『漆』はその原料の八割、そして普段何気なく使ってっている『紙』ネ この紙の原料(こうぞ?三つ又?ガンぴ)等に至っては、原料の九割を中国に輸出してもらっているらしいんだよ。
 五割でもビックリだけど、九割と聞かされれば、もうケンカは出来ないよネ。 
うかうかすると、オイラは紙でケツも拭けなくなってしまうんだよ。」
「なるほど 逆らったら 紙ナシかい! えっ! だったら ケツ拭きは素手でヤルのかい?」
「キタナイ! 一平ちゃん! もう!」ママが怒った。

「そう言う訳だからさ、竹ちゃんのリベンジの原点には『中国の人達に もっと安くて もっといいメガネをつくりました。どうぞ使って見て下さい』という位の『侍日本』の心意気がないと成功は期待出来ないと思うよ」
 
「いやアー 玄さん。いい話を聞いたよ。これは目からウロコだよ。有り難う!」
竹ちゃんは止まり木から降りて、バンザイを始める勢いだ。
「ママ乾杯だよ。皆さんに 一杯オゴラせて 俺は嬉しいよ!」
 竹ちゃんが大きな声をあげた。
「竹ちゃん この店はそんなヤボな店じゃないよ。竹ちゃんの『門出の祝い酒』じゃあないの! この乾杯は お店のオゴリです」と成って
 この夜も意見は玄さん側に落着して盛大な『乾杯!』となるか?と思えた。

だが。
「その乾杯 チョット待ってくれないか!」と、玄さんがストップをかけた。
「なんだよ! 玄さん。ヤメテくれよ! 
せっかくの店のおごりだぜ。リベンジの乾杯に水をさすのかい!」と、一平。
一平は折角の乾杯に玄三がケチを付けたと思ったのか 大不満の様子だ。
 
「実はね 竹ちゃん、俺はズ〜ト前から模索していたんだがね、今度のメガネにはね フレームにも少し細工をして見たらドウだろうね。」 玄さんは急に真剣な顔付きになっている。
「エッ、どんな?」と、竹ちゃん。
「う〜ん、どう説明すれば良いのかなあ〜。 人間は歳と共に 目も衰えてめがねに助けてもらうんだけどさ、人間は同時に耳も遠くなるんだよね。だから拡声器をフレームに仕込められないものかね?」
「エッ!」一瞬 竹ちゃんの目がグルグルっと廻ったように見えた。

「何を言い出すのかと思ったらよう 玄さんらしくもないよ。ばかばかしい!
マイクを手に持って、スピーカーをめがねに ブラ下げるのかい?」と一平。
「そうだよ。原理はね。一平ちゃんの言う通りだよ。でも、スピーカーは要らないんだよね」と玄さん。
「どうして? 分かった。相手の唇の動きで言葉をよむんだろう! それ テレビで見たぞ。」
「一平ちゃん それとは全く違うんだよ。『骨伝導(こつでんどう)』って原理を使うんだよ。」
「何だいそれ、『骨(こつ)何たら』ってのは?」
「『骨伝導』ってのはさ 音を骨を使って伝えるんだよ。うそだと思うんなら、一平ちゃん 目の前に置いてある その割り箸をそ〜っと 噛んでみな『カリカリ』って音がするだろう。でもその音は俺にも 周りの人にも全く聞こえないんだよ。あまりにも小さな振動の音だからね。でもさ 一平ちゃんの耳には確りと聞こえているんだよね。『骨伝導』のおかげでさ。『カリカリ』と」

「ホントだ! ホントだよ これはすごい!」一平は本気で驚いている。
「良いあんばいにめがねのフレームは耳の骨に掛かっているし、フレームの正面でうまく音の振動を拾うことさえ出来れば、音はフレームを伝って正確に振動を耳に伝えるスマートな補聴器が…」
「分かった、分かった! もうそれ以上何も言うな! 中国にバレたら大変だぞ!」と思ったのか、
一平は止まり木から急いで降りると、肩を窄めて竹ちゃんの耳元で『理屈は分かったか』『造れそうか?』と尋ねている様子だ。 
 竹ちゃんが『何とか成る!』と言ったのか『頑張ってみる!』と言っているのか『逆転満塁ホームランだ!』と言っているのかは 分からないが しきりに二本の指を立ててブイサインを出し、もう一方の手の指を自分の唇に当てて『喋る(しゃべる)な! 静かに!』と、口止めをしている。

 この日の『止まり木の宴』は全員が唇に指を当てて 静かなそして盛大な
竹ちゃんの『出陣式』の宴となった。
・・・次回へ続く
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